2020年1月、僕は冬の北海道へ雪道ロングライドと冬山登山を組み合わせたツーリングへと出かけた。
基本的にテント泊で、距離も重視した走りをするのが僕のスタイル。その形を貫いたまま走り抜いた9日間の記録を、この記事ではまとめていきたい。
*各項目が長文になるので、詳細記事のリンクを順次更新していきます。
<目次> 1.ルートと計画 2.装備 3.費用 4.走行記録 5.ノウハウ 6.まとめ
1.ルートと計画
まずはベースとなる自転車編のルートと、組み込んだ登山の計画を。
「冬の北海道ライド」としては日本最北端を目指す「年越し宗谷岬」が有名だが、僕は既に2018→2019で参加し道北は走っている。そこで、道央〜道東をメインに据えた走行ルートを立案した。基本的には150km/dayを6日半と、羊蹄山&斜里岳への登山だ。
長期のツーリングになるので、中盤〜後半のルートは、近辺の峠やショートカットルートを幾つか押さえておく。1本に固定するのではなく、残り日数や体調、天候等を考慮して臨機応変に対応する計画を作った。具体的には、美幌峠周辺のヒルクライムや、野付半島、納沙布岬、開陽台、釧路湿原など、見所を選ぶ形で距離と獲得標高をコントロールする。
Googleマップのタイムラインを元に作成すると、実際に走行したのは↑の通り。(機内モードや低温でスマホが落ちている時間が長くて飛んでいますが…)
・走行距離:1,053km
・獲得標高:9,857m
・登山①:羊蹄山(山頂付近ホワイトアウトの為登頂断念)
・登山②:斜里岳(積雪多くラッセルでタイムアウト)
・全期間:1/21〜29(8日半)
・宿泊場所:テント7泊、ネカフェ1泊
序盤のライドば概ね計画通りのペースで走行出来た。しかし5日目に右膝に強い痛みが出てしまい、高強度の走行が不可能に。
そこで、摩周湖や藻琴峠も走る予定だったがヒルクライム系をなるべく捨てて、中盤を短縮した形へと切り替えた。獲得標高1万mも超える予定だったけど、残念ながらお預け。
その代わり、斜里岳登山のタイムアウトが早い段階で起こったので、登山撤退後に野付半島へ寄り道。結果的に凍結した海上を走る事ができたのでこれもまた良かったかと思っている。
また、終盤は平坦コースだったため膝を庇いつつも何とか走り切り、1,000㎞という目標も達成できた。
登山については、僕はスキーやスノーシューの類を持っておらず、ワカンのみのソロ山行。予想はしていたものの、多くの行程で膝上ラッセルを強いられた。
羊蹄山は登頂可能ペースだったものの、アイスバーン帯でホワイトアウトとなり危険と判断、悔しいが下山した。斜里岳は腰付近のラッセルで、定めていた時刻に規定地点へ辿り着けず、尾根に取り付く事さえ出来なかった。言わずもがなソロの冬山は危険なので、あらかじめ決めておいた基準で、スパッと撤退する様にしている。この悔しさは次に繋げる。
2.装備
自転車装備は、バイクパッキングで軽く/小さく/速くをコンセプトに構成。ベースの自転車はドロハン化したMTBだ。スパイクタイヤを履かせているので、アイスバーンや圧雪路は大得意。多少の新雪でもOKだ。
この中に雪中テント泊装備やリペアツールなど、走行に必要な道具全てが入っている。登山の前以外ザックなどは背負っていない。自転車走行時の装備はこちらの記事にまとめているので、詳しくはリンク先へどうぞ。↓
とにかく装備は必要最低限まで絞っていて、それは軽さ=速さ=安全であること、装備を絞る過程で想定環境が明確になり、安全性が増すこと、が主な理由だ。
登山でしか使わないザック/ピッケル /ワカンなどは登山口近くの郵便局留めで発送。登山後も再度梱包し、次の登山口や自宅までゆうパックで発送した。ザックの郵送に関するあれこれはこの記事にまとめているのでどうぞ↓
3.費用
冬季北海道ライド中の出費は、基本的に食費/ランドリー/風呂のみ。それに移動のフェリー代や輪行代が加わっている。
・食費:1日3,500円×9日=31,500円
・ランドリー/風呂:合計約2,000円
・ネットカフェ1泊:約3,000円
・ザック輸送費:合計6,000円
・仙台⇔苫小牧フェリー往復:約14,000円
・釧路→苫小牧輪行:約10,000円
で、合計で約66,500円。フェリー移動も含めると10日間の旅路なので、妥当か安いくらいではないだろうか。
食事は基本全てコンビニで済ませているので、毎日の長時間移動で1日中食べ続けていても、なんとかこの値段に収まっている。コンビニとはいえ寒さと長時間移動でエネルギー消費が激しく、これ以下にするのは難しそうだ。
また、登山の前後等は持参しているインスタント食品も食べている。価格が曖昧なので雑費として捉えて頂きたい。
4.走行・登山記録
続いては実際の走行と登山の記録を日毎にご紹介。こちらも詳しくはそれぞれ別記事にしリンクを貼っていくので、是非そちらも合わせてどうぞ。
1日目:苫小牧〜羊蹄山登山口
冬季北海道ライド初日。フェリーでお昼に苫小牧に到着し、登山口までの半日のライドとなった。天候は徐々に悪化し後半は厳しい走りとなったが、登山への期待を胸に走りきった。
走行距離:86km、獲得標高:1,039m
2日目:羊蹄山登山
最初の難関、羊蹄山登山。序盤から想定どおりのラッセルだが、登頂可能なペースでなんとか進む。
しかし、標高を上げて積雪が少ないアイスバーン帯になると、昨晩積もった雪が強風で舞い上がり視界がほぼゼロに。初見の山で帰る自信が無いので、悔しいが登頂は諦め下山した。
走行距離:0km、獲得標高:1,233m
3日目:羊蹄山登山口〜恵庭〜新夕張
羊蹄山からは東へと進路を変え、北海道の山岳地帯へと走る。この日は以前からTwitterで拝見していた恵庭にある「山沢仕出し店」さんにも訪問。楽しくお話したり、ランドリーで服を乾かしたりと回復の日となった。
走行距離:164km、獲得標高:1,377m
4日目:新夕張〜日高〜日勝峠〜士幌
昨晩は星が綺麗だったが、今日は一転し雪模様。降らないとの予報だった為計画が狂い、結果的に危険な日勝峠越えとなった。
登りは押し歩きでなんとかしたが、交通量が多く視界不良で轢かれかねない下りは、通りがかりの方に助けて頂いた。また、夜は風除けの為に牛舎を借りて寝るという面白い体験も。
走行距離:121km、獲得標高:2,081m
5日目:士幌〜三国峠〜石狩峠〜北見
走行ペースが芳しくなかったので、少し距離を伸ばして北見まで。北海道で最も標高の高い三国峠を走ったり、その手前のタウシュベツで凍結湖上ライドをしたりと、充実した走りの出来た1日だった。
しかし最後に膝に痛みが出始め、翌日からの行程に影響することとなる。
走行距離:189km、獲得標高:1,887m
6日目:北見〜美幌峠〜清里
膝の痛みが予想以上で、ほぼ左脚のみの片足ペダリングで乗り切った。最終的にはペダルに足を乗せているだけでも痛むほど。
天気がとても良く、本当なら摩周湖や藻琴峠のヒルクライムも楽しみたかったが、とても走れる状態でなかったのでスルーし斜里へと向かった。
走行距離:120km、獲得標高:1,183m
7日目:清里〜斜里〜斜里岳登山口
翌日に控えた斜里岳登山の為、膝の回復も兼ねてザックの回収と登山口へのアプローチに1日を要しゆっくり過ごした。
それでも天候悪く決して楽では無い1日だった。
走行距離:47km、獲得標高:563m
8日目:斜里岳登山〜野付半島〜根室
斜里岳登山が積雪の為早々にタイムアウトとなり、悔しさで野付半島ライドへ。とても天気が良く、凍った海の上を走るというレアな経験もできたのが救いだった。
走行距離:140km、獲得標高:457m
9日目:根室〜納沙布岬〜釧路&輪行
最終日、日本最東端の「納沙布岬」へ。去年の「年越し宗谷岬」で冬場の最北端は制覇しているので、東と北の端へ冬場に自転車で訪れる事ができた。
走行距離:187km、獲得標高:1,284m
5.安全対策/走行ノウハウ
雪上ライドとはいえベースはテント泊でのロングライドなので、時間の管理や体力回復・補給など、過去にも記事に書いてきた内容と重複する部分は多い。
基本のあれこれ
ベースとなるものは夏版のこれ↓や
冬の北海道の道路利用について書いたこれ↓
そしてこれ ↓
特に「冬の北海道を安全に走るための工夫」という上の記事は重要と思うことを詰め込んだので、走ろうという方は是非目を通して頂きたい。
ここでは、この2つの記事以外に冬季北海道ならではのものを抜粋してご紹介したい。詳しくはかなりの長文になってしまうので、別記事でご紹介予定。執筆中なので少々お待ちください。
すべて凍る
冬の北海道特有の問題としては、すべてが凍るということ。補給食や朝食用に買っておいた食料、自分から出た水蒸気に至るまで、すべて凍る。バイクも朝方霜で凍り付く。
だから補給食は凍ってもおいしいチョコレート系や飴系が多くなって、おにぎりや調理パンの類は向かない。また、テント内は朝方に霜で真っ白になる。テント内で火器を使うと暖かくはなるが、ポールの中に霜が溶けて流れ込み、ジョイント部分で凍って撤収が凄く大変になったりもする。ファスナーも凍って開け閉めが大変なので要注意。
そして、一度凍ってしまったものを乾かす術が基本的にない。体温で溶かしても外気にさらすとすぐ凍るし、氷は完全には取り除けないのだ。
自動車との譲り合い
冬の北海道は路肩に除雪された雪がたまるので道が狭くなる。また、風雪で視界が悪いことも多いし、そもそもドライバーに「自転車がいるかも知れない」という頭がない。
だから極力目立つ努力をすることはもちろん、積極的に後ろを確認して安全な場所で追い抜いてもらう必要がある。安易に路肩付近を走行すると凸凹な氷でバランスを崩したりと返って危険なので、自分が安全に走れるラインを確保しつつ、時には停車する・歩道を走るなどして後続車に道を譲るような走り方が良い。
また、交通量が少なく視界のいいルート選択をするのも重要。天気や風向き、峠の分岐での交通量などから総合的に判断する。詳しくは別記事にまとめる予定だが、土地勘のない北海道外の人ほど真剣に考えるべきだろう。
6.最後に
『冬の北海道を自転車でキャンプツーリングする』というと、大抵「馬鹿じゃないの?」と言われるし異端者への眼差しを受ける。だけど、その『馬鹿なことを馬鹿みたいに本気でやると、もう無茶苦茶楽しい』というのは、声を大にして言いたい。
確かに冬季北海道ライドは危険もたくさんあるし、(特に北海道外に住んでいる人は)気軽に始めるものではないと思う。その一方で、危険の先にある美しい世界や、貴重な体験もある。入念な準備をしたうえで、興味のある方はチャレンジしてみて欲しいと思う。もし実際に行くという方は、この記事はあくまでまとめなので、僕のブログが嫌いでなければリンク先の詳細記事にも目を通していただきたい。
おわり