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冬季北海道ロングライドのノウハウ【凍傷対策/装備&準備/テント泊等】

真冬の北海道のような寒冷地でのロングライド・長期ツーリングでは、通常の冬のライドとは異なる点がたくさんあり、それなりの対応が必要になったりする。

そこで、冬季北海道をはじめとした常に氷点下な様な環境での長時間行動のノウハウを僕なりにまとめていきたい。

<目次>
1.凍傷・低体温症の予防
2.体調管理
3.装備の選び方・扱い方
4.雪中テント泊ノウハウ
5.最後に

1.凍傷・低体温症の予防

まずは凍傷と低体温症の予防についてから。どちらも最悪の場合、患部の切断や後遺症、死亡の危険まである重大リスクだ。

今年の冬に冬季北海道ライドをした方の中にも、凍傷で入院したらしい方もいる。凍傷も低体温症も予防できるものだけど、そのためにはメカニズムと適切な対処法を知る必要がある。

凍傷のメカニズムは、身体が寒さを感じる→体温維持のため血管が収縮→末端の体温維持能力が低下→患部の凍結&細胞破壊、という流れ。これを予防するためには、①寒さを感じない防寒②血行を良く保つ、という2つの対処法がある。

①はレイヤリングを駆使したり、手足の末端の防寒を万全にするのが第一歩だ。冬山用のグローブ類は最低限必要だし、それでも長いダウンヒルは寒さを感じるのでそれ以上の備えが必要とも思う。そして、なるべくグローブを外さない等の寒さを感じない工夫が重要。特にスマホをいじったり、細かい作業をしたかったりでグローブを外してしまうと、折角の防寒対策を無にすることになる。どうしてもスマホをいじりたいならタッチペンを使うとか、細かい作業も出来るように練習しておくといった準備が必要になる。

少し補助的だが、低温の金属に素手で触れると皮膚の水分が凍り金属に張り付いて取れなくなる。お湯をかける等しないと皮膚が剥がれるか凍傷になるかなので、インナーグローブは絶対に外さない癖をつけておくのが良い。

②も重要なポイント。特にサイクリングでは、手に荷重がかかるしSTIやグリップを握る関係で手が圧迫されやすい。冬山でもピッケルを持つ利き手の方が凍傷になりやすいんだけど、サイクリングは両手がピッケルを持つ以上に血流が阻害される環境に置かれる。

具体的な対策としては、⑴圧迫時間を減らす⑵常に動かす⑶「首」を温める、の3つがある。⑴は抜重を駆使したり、ダウンヒルでは片手をハンドサインを出すときの様に体の後ろに持ってきたりする。⑵はSTIを握りながらでも、とにかく指先を細かく動かす。寒さを感じてからではもう遅いので、気温を感じながら予防策として動かしておく。⑶は手首や足首などの「首」の保温が重要という話で、防寒装備を充実させたりカイロを使ったりして「首」を温かくしておくと血行が良くなるのでおススメ。

また、「防寒対策のつもりで重ね着をし過ぎて、かえって身体を圧迫して血流を阻害する」というパラドックスにも要注意。結局温かさはロフト=空気の層の厚みで決まるので、むやみに重ね着するのは返って逆効果。アウターレイヤー程大きめのサイズを着て、ロフトを潰さないようにしなくてはならない。

凍傷にも段階があって、①皮膚の感覚がなくなる/白くなる、②細胞膜が崩壊し水ぶくれができる(血が混じると更に重症)、③細胞が壊死し真っ黒になる、という具合に進行する。凍傷はなるべく早い段階で患部を解凍し安静にするのがベストなので、こういった症状が出たら患部の保温を最優先にして病院に直行するべき寒さに晒し続けると症状はどんどん悪化するし切断なんてことになりかねないので、間違っても行動を続行しないように。

低体温症については、基本的な体力マネジメントや補給、防寒装備などが総合的に必要になる正直、低体温症になるような装備や計画で冬の北海道に挑むべきではなくて、自分の体力レベルや栄養状態、運動による発熱、汗冷え対策、エスケープルートの理解など、根本的な準備&経験の積み重ねがものをいう。厳しい言い方だが、それらが一定のレベルで出来ない人は冬の北海道サイクリング(特にロングライド・キャンプツーリング)をするべきではない。

 

2.体調管理

寒冷地のサイクリングでは、体調管理もシビアになる。気を付けるべきは、①身体がかじかむこと、②関節の痛み③内臓の冷え④脱水症状、の4つ。

①は、特に手や腕に注意。手がかじかむと、咄嗟のバイクコントロールが出来なくなったり、落車や事故のリスクが増したりする。常に自分の身体の状態を把握しておくのが大事。

②は、特に膝の痛みに注意。冷気に晒されると筋肉は硬直しやすく、結果的に腱に負担がかかり炎症と痛みを引き起こす。時には悶絶するほど痛むが、後遺症にも発展しかねないので無理は禁物。痛みは気合でなんとかなるが、気合で乗り切った代償は大きい。

③は高強度で走った時に起こりやすく、—2桁の冷気を直接・大量に吸い込み続けると特に起こりやすい。筋肉は発熱するから暑いくらいの気分でいると、消化機能が低下して補給がままならなくなる。寒冷地ではただそこに居るだけで体力を消耗するので、補給ができなるなる=THE・END。

④は忘れがちだが重要。寒冷地は湿度が低いし汗と吐息で想像以上に水分を消費する。喉が渇かなくても定期的に水分補給をしないとあっという間に脱水症状に陥る。

体調管理に特に有効なのが「温かい飲み物」で、僕は冬季北海道中、お湯or温かいスープ以外は一切飲んでいない。①~④の全てに有効なだけでなく、精神的にも落ち着きと安心感を与えてくれるので温かい飲み物は超偉大だ。

ライド中いつでも温かい飲み物を飲めるように、高性能な保温ボトルは絶対に必要。僕的なおススメはサーモスの山専ボトル。値段は張るが軽いし保温性も最高。回転部もグリップがいいので分厚いグローブでも扱いやすく、仮にキャップ付近の水滴が凍結しても力でねじ開けることが出来る。モンベルの水筒は保温性はいいけど凍結すると開けられないので、絶対にサーモスがおすすめ。

また、②関節の痛みにはテーピングサポーターがあると延命できる。特にサポーターは負担軽減だけでなく多少の防寒もできて良いと思う。予防にもなると冬季北海道ライドでも後半膝の痛みに苦しめられたが、テーピングとサポーターを駆使してなんとか乗り切ることが出来た。使っているのはZAMSTのEK-3で、タイツの上から使っても効果はある。友人もこれで山岳ライドを乗り切れたので、膝に不安がある方は使ってみても良いと思う。テーピングは伸縮性のあるものがGood。

 

3.装備の選び方・扱い方

続いては装備の選び方や扱い方について。

装備の選び方については、とにかく「自分が命を懸けられるもの」を選ぶに尽きる。たとえウエアだけで10万円かかろうが20万円かかろうが、これは金額の問題ではない。ウエアに関しては、安く済ませたい方はとにかくモンベルで一通り揃えるのをお勧めする。とりあえずモンベルショップに行って「最終的には厳冬期の3,000m級に挑戦したいので、それに耐えうる装備を教えてください。」と言えば、必要なものが見えてくるはずだ。

僕が実際に使った装備はここにまとめているので参考までにどうぞ。

装備の選び方は出かける前の話だが、装備の扱い方は出かけた後の話。

意識するべきことは、①装備が壊れやすいこと、②電子機器はあてにならないこと、③凍ったものは永遠に乾かないこと。

①は特に樹脂製品に言えることで、ライトやサイコンのアタッチメントなんかがちょっとした衝撃で粉々になる。バイクを止める時やガジェットの着脱には注意が必要。

②は気温が低いほど顕著で、大抵の電子機器はバッテリーがダメになって使い物にならない。-15℃くらいまでならGarminのeTrexは使えるし、スマホもジャケットの内ポケットに入れて温めておけば何とか駆動する。それでも、-20℃以下になると強制シャットダウンすることも多い。「最悪スマホで検索すればいいや」なんて思っていると悲惨な目にあうので、計画段階でエスケープルートを含めて検索しておき、全て頭に叩き込んでおく必要がある。

③はテント泊で特に問題になる。基本的には自分の体温意外に0℃以上に出来るものが存在しないので、基本的に一度凍ったら全て凍ったままだ。もちろんジャケットの中に入れて体温で溶かせなくもないけど、融解熱&気化熱で大量のエネルギーを失うので良くない。

 

4.雪中テント泊ノウハウ

もし冬の北海道をキャンプツーリングしたいなら、雪中テント泊の技術も必要になる。ここでは、その雪中テント泊のノウハウを簡単にまとめたい。

気を付けるべき主なポイントは、①整地と風よけが必要②装備の凍結or結露に注意③雪に埋まっての窒息に注意、の3つ。

①は雪中野営の基本で、まずは設営ポイントの雪を踏み固めて土台を作らなくてはならない。また、冬季北海道は強風が吹き荒れることも多いので、雪壁を構築するなどして風よけを作っておくのが良い。ペグは凍った地面には打てない場合が多く、また雪中では高い確率で紛失する。ペグを残してしまうのは良く無いので、氷のブロックを使って細引きを固定したり、木の枝を雪に埋めたりするのがいい。

②は避けられない問題で、体温や吐息によってテント内が結露してそのまま凍る。シュラフなどの防寒を完璧にして、テントの窓を全開にすればある程度は防げるが、結露をゼロにするのは非常に難しい。また、シューズやアウターなどの重要装備もテント内にむき出して放置すると結露で凍るので、必ず袋に入れたりシュラフの中に入れたりして凍結を予防する(低温を避けたい電子機器や凍らせたく無い食料はシュラフの中に入れるといい)夏用のテントだと出入り口のジッパーも結露で凍ることがあるから、それにも注意だ。

③は豪雪地帯や山間部でのテント泊で要注意。積雪でテントが完全に埋まると睡眠中に徐々にテント内が酸欠になり、そのまま永遠の眠りについてしまう。雪の日は定期的に目覚ましをかけて雪かきしないと死ぬ。ただ、そんな豪雪地帯or大雪の日にテント泊をする必要もないので、そこは計画的に回避するなどしてリスク回避をした方が良いと思う。

また、テント内でのストーブ・バーナーの使用にも要注意

そもそも前提として、ストーブの類はテント内で使用しない方が良いものだ。①火事の危険、②一酸化炭素中毒の危険、③大量の結露&凍結の危険、がある。①は言わずもがなだが、②は油断していたり、疲労していたりすると余計に危険。雪を溶かしている間に寝落ちして、そのまま中毒死しかねない。自衛隊の演習等でも同様の事故は起きている。③はテント内を暖めた結果起こるもので、大量の結露が起こって装備が濡れる&凍結したり、テントポールに結露が染み込んで凍り撤収時に分解が困難になったりする(設営時にポール内に雪を入れないのもポイント。もし凍ったら、手の摩擦と体温で溶かして分解する)

これらは本当に危険だが、現実的にはテント外は風雪でストーブが使い物にならない事が殆どだし、寒いときにテント内を暖められるというメリットもある。基本的な運用としては、ストーブ使用時は換気をしっかりし、ストーブで暖を取るのは補助的なものとして外気温でも寝られる装備を持つのが良い。

 

5.最後に

ここまで、僕が書ける内容をなるべく網羅的かつ簡潔にまとめてみた。だけどこれはあくまで僕の知識や経験の範囲内で、かつ僕の体力や技術を持ってしての情報なので、必要な部分はググったり質問したりして各々補強していただきたい。逆に、冬山を本格的に登っている方からしたら「何それ常識じゃん」というレベルの話が多かったとも思う。

冬の北海道ライドは、厳しい分だけ美しさや達成感が段違いだ。僕は、興味がある方にはぜひその楽しさを安全に味わって欲しいと思うので、自分が書ける限りの情報は公開する。冬季北海道ライドの交通安全に関するまとめや、冬季北海道ライドの総括についても、是非合わせて目を通していただければと思う。

おわり

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