雪道ライドを存分に楽しめる、極寒対応のサイクリングシューズ…。そんな超ニッチな製品が、「LAKE:MXZ304」だ。
氷点下15℃まで対応するという、本格仕様のSPDシューズ。せっかくなので、冬の北海道をキャンプツーリングして試してきた。今回は、そのLAKEのシューズの実力を、あれこれレビューしていきたい。
<目次> 1.スペック 2.各部詳細 3.使用感 3-1.サイズ感・フィット感は? 3-2.本当に-15℃で使えるのか? 3-3.脱ぎ履きが楽でよい 3-4.フラットペダルでも使える? 3-5.防水ではなく「撥水」 3-6.歩きやすいSPDシューズ。雪面は◎、凍結は△ 4.まとめ
1.スペック
では、スペックを見ていこう。
・カラー:ブラック
・サイズ:EU36~50(ワイドEU39~50)
・対応気温:-15~7℃
・ソール:2穴SPD、Vibram
・重量:756g(EU45ワイド片足実測)
LAKE(レイク)はアメリカのサイクリングシューズ専門メーカー。革製のシューズを得意としていて、独自のフィット感からファンも多い。
そんなLAKEだけど、実は冬用のサイクリングシューズ・ブランドとしても有名だ。氷点下二桁にも対応するシューズ(というよりブーツ?)を制作した先駆者であり、現状では「LAKEか45NRTHか」という2強となっている。
僕は、これまで冬北海道ライドを約2,600km走ってきた。氷点下2桁は日常、時にはマイナス20℃以下にもなる環境で、残念ながら足元は快適とは言えなかった。
使用してきたシューズは、登山靴やNorthwaveのRaptor(0℃付近で活躍するライトめな防寒シューズ)。このLAKE:MXZ304の様な、ブーツタイプのサイクリングシューズは未経験だった。
そんな折、LAKEの代理店であるキルシュベルクさんとお話をする機会があり、「良かったら使ってください!」とのお声を頂いた。今回、有難くテストさせて頂いている次第だ。もちろん、提供していただいた製品ではあるけれど、いつも通り使用感を素直に書いていく。
2.各部詳細
では、各部をくわしく見ていこう。
一般的なサイクリングシューズの見た目とはかけ離れた、ブーツのような出で立ち。スノボ用シューズにも見える。
ゴツくて無骨な印象だけど、各部のつくりから、雪の多い極寒の地域にも対応していることが伺える、面白いシューズだ。
主な素材は、高級レザー「Pittards」の撥水透湿革を採用。質感の良い本革だ。
ロゴは白文字が入るほか、側面に型抜きで「LAKE」の刻印もある。革ならではの凝ったデザインでカッコいい(画像2枚目)。
つま先は補強されており、スパッツ(ゲイター)用のDリングも用意されているのが面白い。
スパッツとは、上の画像2,3枚目の青いやつで、靴の中に雪が入り込まないようにする登山用具だ。雪の深い場所や吹雪でも足元が快適な様に使用するものだけど…まさかこれを、サイクリングシューズでも想定しているなんて。笑
内側もしっかりしていて、クランクと擦れても大丈夫そう。
生地は全体的に分厚くて、断熱効果も十分にありそうだ。内部には、約200gの断熱材が入っているらしい。
アッパーは、ベルクロ&バックルで固定。雪が入りにくく、また保温性を高める工夫だろうか。
中にはBOAダイヤルがあり、靴紐と比べて簡単に脱ぎ履きが出来るようになっている。
使われているBOAダイヤルは、スノボなどウィンタースポーツ用モデル。自転車用と比べて大きく、分厚い冬用グローブをしていても、操作しやすいものだ。
最上部のループは着脱可能で、ここを外せばより早く・楽に脱ぎ履きが出来る。このバックルは扱いやすい…という程ではないものの、大き目なのでそれなりに操作しやすい?部類だろうか。
また、後方には大きなループが付いていて、こちらも脱ぎ履きを補助してくれるだろう。
ソールは安心のVibram(ビブラム)。アウトドア用シューズでは定番中の定番で、柔らかい雪でもグリップの効きやすいパターンを採用している。
ご覧の通り、2穴のSPDやクランクブラザーズのクリートに対応している。MTBで使われるスパイクもつま先に装着可能。
クリートカバーはオプションで、1,650円(税込み)で販売されている。残念ながら付属はしないので、フラットペダルで使用するなら、別途購入が必要だ。
僕は社外品で対応してしまった(詳しくは後述)けど、雪ライドではフラットペダルを使うシーンが多いので、カバーが付属していればよかったのに…と思う。
インソールはこんな感じ。起毛した素材が裏表に張り付けられている。所々シルバーっぽく見えるのは、断熱効果を持たせるためだろう。キャンプ時のマットで熱反射の重要性を痛感したので、この構造は非常に好感。
画像2枚目をご覧いただければ分かるとおり、中央にはエアキャップの様なものが挟まっている。これで空気の層を確保して、保温性を持たせる構造なのだろう。使い方によっては潰れないかな?とちょっと心配だけど、今のところ大丈夫そうである。
シューズの前後には、大きい反射材。冬は暗くなるのが早いし、ドライバーも自転車がいるとは思わないので、これはとても嬉しい。
重量は、EU45のワイドモデルで、片足実測756g。通常のサイクリングシューズと比べると重いけど、冬用の登山靴を比べれば妥当な重量だ。
3.使用感
さて、続いては使用感をいろいろとみていこう。
3-1.サイズ感・フィット感は?
シューズ選びでネックとなるのが、サイズ感やフィット感。僕は普通のサイクリングシューズはEU43を選ぶけれど、今回は分厚い靴下に合わせるため、余裕を十分に持ってEU45のワイドサイズを選んだ。
僕の足型は、恐らく日本人の平均的なタイプ。そんなに極端ではないものの、世界的に見れば幅広・甲高な方だと思う。
いつも履いているシューズは、シマノやFLRのEU43、スニーカーなどは大体27.5cm。Fizikなどの幅が狭いシューズだと、EU44にサイズアップしないとキツくて履けない感じだ。
余裕をもって履いているのでLAKEのサイズ感を語るのは難しいけれど、恐らく長さ的なジャストフィットはEU44のワイドだったと思う。けれど、僕は若干右足が大きくて、右足の幅がキツい気がしたためにEU45のワイドを選択した。冬はとにかく血流を良くするために圧迫感のないシューズを履くことが大切なので、かなり余裕をもったフィッティングをしている。
3-2.本当に-15℃でも使える?
では、いよいよ保温力について。1月の北海道を約1週間キャンプツーリングして、実際のところを試してみた。経験した気温は、+5~-20℃あたり。靴下はウールソックスを2重にしている。
結果、僕の感覚では「-15℃は指先に冷たさを感じるけど、問題なく使える」という感じだった。
気温別の体感は、以下の通り。
冷たさの感覚は個人差が大きいので、あくまで僕個人の感想であることを強調したい。
・+5℃:かなり暖かい。高強度は暑くて汗をかく ・0℃:暖かい。高強度は少し暑い ・-5℃:快適。高強度でも暑くない ・-10℃:暖かくはないけど、寒くもない。下りは冷気を感じる ・-15℃:指先が冷えてくる。長い下りは少し辛そう ・-20℃:冷たいが、我慢できる範囲。凍傷にはならなそう
僕が今まで使ってきたシューズに比べると、明らかにLAKE:MXZ304が暖かかった(過去のシューズは、登山靴、Northwave:Raptor Arctic GTX+シューズカバー)。-15℃でも走りに集中できたし、国内での冬用サイクリングシューズで言えば、最高ランクと言っても過言ではないだろう。
もしこれでも冷たいと感じるなら、シューズをどうこうするより、電熱線ソックスやVBL*を使用するのが良いのでは?と思ったり。重量やサイズの観点から考えても、靴をこれ以上ゴツくするより、その方が効率よく快適に出来る気がする。
いずれにせよ、今回の北海道遠征を大いに楽しめたのは、このシューズあってこそだった。どの気温まで耐えられるかは人それぞれだけど、僕的には十分すぎる活躍をしてくれたと思っている。
*VBL:Vapor Barrier Layering。ビニールなどの非透湿・防水素材で身体を覆う方法。一般的な「汗を身体から離す」理論と真逆の発想だが、熱損失が少なく、脱水リスクも低下するため、極地冒険や冬山登山などの超低温下で用いられる。
3-3.脱ぎ履きが楽でよい
シューズを評価するうえで、脱ぎ履きのしやすさも欠かせない。特に大型のブーツとなると、脱ぎ履きのストレスが無視できない場合が多いからだ。
LAKE:MXZ304は、締める⇔緩めるが早く、かつ細かく調整できたのが良かった。
スノボ用の大型BOAダイヤルや、かかとの大型のループなど、グローブをしていても扱いやすい工夫も良好。走りながらフィット感を調整できるBOAダイヤルはやっぱり便利で、脱ぐ時もタンをグイっと引っ張れば簡単に緩むため、数秒でテント内に撤収出来るのも魅力だった。
今まで使っていたNorthwaveは脱ぎ履きが大変だったし、登山靴もシューレースが面倒だった。それらと比べると、もう戻れないほどの差があったと思う。
唯一残念だったのは、サイドのバックル(特に下側のやつ)。厚手のグローブをした状態では、このバックルの扱いが少し難しかった。
もう2周りくらいバックルが大きいか、着脱が簡易的な構造(例えば大型のフックや、マグネットバックルなど)なら最高だったのに…と思う。
3-4.防水ではなく「撥水」
このMXZ304最大の欠点は、防水ではないところ。
代理店のキルシュベルクさんに確認したところ、『汗がこもって冷たくなるのを避けるため、LAKEの冬用ブーツで唯一防水フィルムが入っていない』とのこと。
実際に北海道でも、気温が上がり路面がびしょ濡れになった日には、つま先~足裏が浸水してしまった。
シューズの構造を見ても、タンがアッパーと一体成型になっておらず、防水よりも通気性を優先した設計なのが伺える。
正直に言えば、僕は足で汗冷えを感じたことはないので、完全な防水仕様にしてほしかった。0℃前後で走る場合、日中は雪が解けて大量の水しぶきが靴に当たり、夜間は氷点下に冷え込む…という事は多い。そんな状況下で浸水してしまうと、汗冷えどころでない苦しみが待っているからだ。
意外なメリットで言えば、タンが一体成型でないお陰で、シューズ内部が乾かしやすかったこと。この濡浸水した日はたまたまゲストハウスに宿泊しており、一晩ストーブの前に置くだけで乾いてくれた。経験上、防水シューズ浸水しにくい分、一度濡れるとは2~3日乾かないことが多いので、嬉しい誤算となった。
3-4.歩きやすいソール。雪面は◎、凍結面は△
見た目のゴツさに反して、MXZ304は歩きやすいシューズだった。キャンプから輪行、フェリーでの移動など、遠征で歩行する時間はかなり多い。その道中でも、快適に使えたのが好印象。
Vibramソールは安定の使いやすさだし、レザーのアッパーが履いているうちに馴染み、歩きやすく・履き心地よくなっていった。特にレザーの馴染みが印象的で、ツーリングの後半には、フィット感やつま先の返り・しなやかさもUP。ここも、今までの登山靴やNorthwaveにはなかったメリットだ。
ソールのグリップは、雪面で良好、凍結面では今ひとつだった。ソールパターンや種類から言っても、このMXZ304は氷ではなく雪を念頭に設計されている。凹凸の大きいパターンは雪を捉えるが、氷では意味をなさないからだ。凍結面には、スタッドレスタイヤの様なもっと小さい溝が適している。
これは良し悪しではなく、向き・不向きの話なので、使いたい環境にあっているか次第だろう。もし凍結面で使うなら、更に上位モデルの「MXZ400」が適しているだろう。LAKEのラインナップでも、モデルごとのすみ分けがされている、という事だ。
3-6.フラットペダルでも使える?
続いては蛇足的だけど、フラットペダルでの使用感について。そもそも、このMXZ304はSPD(2穴クリート)用のシューズで、クリートカバーは付属しない。
でも僕はフラットペダルで使いたかったので、Shimanoのクリートカバーを加工して、フラットペダル仕様にして使っていた。
使った製品は、シマノの補修パーツ「SH-MT32」。元はシマノのSPDシューズ向けの補修パーツだけど、要するにゴムのクリートキャップなので、ナイフで合う形に削って使用している。幸いカバーの高さは合ったので、形さえ合わせればいい感じにフィットした。
これと言ってネガはないけれど、このシマノのカバー部分はゴムの素材がイマイチらしく、雪を拾う(雪がくっつく)のが少々ストレスだった。せっかくならビブラムで作ってくれたら良かったのに…という感じ。笑
先述したLAKE純正のクリートカバーについては、春に頂いたので使用感は分からない。ただ、ものを見る感じだと、こちらの方が良さそうな雰囲気がある。
というのも、画像2枚目でアップにしている部分に、ザラザラとした滑り止めが効く素材が用いられているからだ。Shimanoのクリートカバーは雪上や氷上でイマイチだったので、こちらの方が冬には使いやすいのでは?という期待感がある。
実際のところどうかは分からないので、あくまで物をみた感想であることをご了承いただきたい。
3-7.手入れについて
最後に、MXZ304の手入れについて。僕自身、レザーのサイクリングシューズを初めて使うので、正しい手入れが分からない。
キルシュベルクさんに確認したところ『通常のレザーブーツと同じお手入れで大丈夫です』とのこと。LAKE本国のサイトが一番詳しいようなので、気になる方はこちらをどうぞ。
革製品に関して詳しくはないけれど、たぶん無難に「デリケートクリーム」の類を塗っておけばいいかな?と思っている。
ビジネス用シューズだと、色のついたクリームや艶出し用のワックス系を良く使うけど、別にヌルテカにしたい訳じゃないので、ナチュラルな乳化系オイルが良さそう。
そして、撥水処理も忘れずに。防水フィルムが入っていないので、尚更撥水は大事そうだ。「ニカワックスが良いよ!」と聞いたので、他のシューズにも使えるようにレザー&ファブリック用を使っている。
4.まとめ
以上、僕なりにLAKE:MXZ304のレビューをしてみた。
総じて、寒冷地で非常に使用感がよく、過去一の快適さで冬北海道キャンプツーリングを終了できた。この冬の僕の遊びを足元から支えてくれて、とても満足している。
唯一注文をつけたいのは、やはり防水性。この気温帯に対応するシューズなら、完全防水にしてほしかった。前作は完全防水だったらしいので、今後のアップデートに期待しよう。
この記事が、冬サイクリングを楽しむ皆様の参考になれば幸いだ。
おわり