僕「よし行くか、いよいよだな」
フェリーの乗船時間になり、待合所を出た。フェリーへは追加料金で自転車をそのまま乗せられる。北海道ツーリングに行くのだろうか、バイクの人たちの後を追い、フェリーに乗り込んだ。
フェリーの車載スペースはとても広くて、奥まで入るとまるで大きな立体駐車場にいるようだ。
係員の誘導で壁際に自転車をもっていき、壁に縛り付ける形で固定した。
「自転車、高いんでしょう?笑」
なんていいながら、係員は手際よくフレームに毛布を巻きつけていった。こんな配慮をしてくれるなんて、自転車乗りからするととてもうれしい。
その様子を見守っていると、後ろから続々と大型車が乗船してきた。トラック達が、人一人がやっと通れるくらいの隙間を空け、所狭しと並んでいく。この車たちはどこへいくのかな?
*** *** * *** ***
車載所の扉から階段を上がり、客室へと向かう。
客室の数も多いみたいだが、僕らが使うのは一番安い雑魚寝スペースだ。壁に点々とコンセントがあるのだが、そこは慣れていそうな先客が陣取っていた。
靴を脱いで、カーペットの上の適当な場所に横になる。船のエンジンの振動が、全身に伝わってきた。心なしか、波で上下にも揺れている。
まもなく出航時刻となり、船が動き出した。このまま朝まで揺られていれば、ゴールの函館に到着というわけだ。
*** *** * *** ***
そのときは、思いのほかあっという間に、実感もなく訪れた。
エンジンの細かい振動とゆっくりとした波の動きに揺られているうち、いつのまにか僕は眠りに落ちていたらしい。気がつけば函館到着のアナウンスがなっていた。
後から乗船してきたトラック達が先に下りていく。順番を今か今かと待っている時間が待ち遠しく、船内に充満する排気ガスが苦しくてつらかった。というか、時間が経つにつれ息が苦しくてたまらくなっていった。笑
そして、いよいよ僕らの番。
その排気ガスに満たされた船内を脱出し、人生初の北の大地を踏んだ。と言っても同じ日本だし、何が違うというわけではない。降りた直後は、普通に「ここどこ?」という感じ。笑
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フェリー乗り場を離れると、眠い目をこすりながら僕らは函館駅に向かった。なんといっても、まずは行ったという証拠写真を撮りたかったのだ。
ひんやりとした夜明けの風を感じながら、海沿いの道を走る。フェリーの発着所から駅まではすぐだ。
駅前広場の、不思議なモニュメントの前で一枚。せっかくの機会だから、暇そうにしていたおじさんにお願いして2人での写真も取ってもらった。
小父さん「自転車旅?どこから来たの?」
T「横浜からです!」
旅中、立ち寄るたびに何度もしてきた会話だ。
小父「そりゃすごいな!何日かかったの?」
T「今日が11日目ですね」
(ああそうか、俺らは11日前にあの家を出発したのか。
小父「そうかそうか。今日はどこまで?」
T「いえ、函館がゴールです。今日はゆっくり函館楽しみます!」
いつもなら『ゴールは北海道で、今日は○○までです!』って答えていた。それが、今は違う。
(ああ…ゴールしたんだな、俺…。
写真を撮られながら、旅のゴールにじわじわ気づいた。
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函館に着いたらまずしようと言っていたのが、朝市で海鮮丼を食べること。市場の開店と同時に入っていき、贅沢に「ぜんぶのせ」の類を頼む。ウニ、いくら、えび、いか、ほたてに魚の数々…。ご飯の上に所狭しと海の幸が並んでいる。今日はゴールのお祝いだ。
一つ一つ、噛み締めて味わった。全部おいしかったんだけど、一番気に入ったのがイカだった。食べなれているからか、いつものイカとの違いがよくわかったのだ。甘みと味の濃さがまったく違う…。それは感動ものだった。
お腹を満たしてからは、昨日予約したホテルに荷物を預け、軽くなったバイクで五稜郭へ。いちおう観光名所を回っておこうかという作戦だ。
五稜郭は思っていたよりも大きな公園で、気持ちのいい芝生になっていた。ここで、僕らが気づいた。
『自転車に乗らなくていいと、することがなくて暇』
まだお店が開くような時間じゃないし、かといって自転車で遠くまで走りに行こうなんていう元気はない。暇を持て余してベンチでだらだらしていたら、2人とも寝ていた。そして、気づけば昼。
函館まで来て何をしたかといわれれば、たぶん昼寝していた時間が一番長い。笑
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昼食はTがチェックしていたご当地ハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」。
ここにきて、旅最大の失敗を犯す。後日談だが T 曰く『雨も坂もメカトラもあったけど、これが一番辛かった』と。笑
何をしたかというと、人気バーガーTOP4を積み重ねた「ノッポバーガー」を注文した。1つがビックマックくらいはあるサイズだから、それ4つとなるともはや見た目がネタにしか見えない。
ノリと勢いでここまで来れた俺らなら余裕でしょ、という謎の自信で注文したが、その圧倒的物量の前に撃沈した僕らであった。
*味は今まで食べたバーガーでも上位の美味しさでした
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1時間を越えるノッポバーガーとの激闘を制した僕らは、おとなしくホテルにチェックイン。満腹で動けなかったので、1週間ぶりのベッドに歓喜しつつ夜を待った。
夜はジンギスカンでも食べたいと思っていたが、昼食のバーガーがまだ消化待ちだったので、おとなしくコンビニで買出ししホテルで乾杯。ひっそりと祝賀会を開き、ひっそりと幕を閉じて翌朝となった。
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翌朝は再び朝市へ。
僕は昨日気に入ったイカを食べたかったので、断頭されたての、まだ動いているイカが乗る「踊りイカ丼」を喰らった。見た目のインパクトMAXだが、その味も最高だった。
2日目は適当に函館の町をツーリング。
赤レンガ倉庫に行ったり、北海道名物セイコーマートに立ち寄ったり。時間をつぶしつつ、夜になるのを待った。
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2人の旅の、最後の夜。
今日の夜にはフェリーで青森へ渡り、別々に帰宅する。
今日こそはジンギスカンを食べて乾杯したい。そう思っていたところに、ちょうど広場にビアガーデンが催されていた。ジンギスカンもありそう。これはちょうどいい。
早速、テーブルのコンロにあの独特な鉄板を置いた。肉や野菜の焼ける音を楽しみながら、2人の旅路に乾杯だ。
T「旅も終わりかぁ。ほんと俺たち、よく来たよな」
僕「だな、まさかあれで本当に来ちゃうなんてなw」
T「チャリで北海道行ったら面白いんじゃね?からチャリ買ってさ」
僕「初日の宇都宮までは辛かったなぁ」
T「うん、俺2日目の朝帰ろうかと思ってたもんw」
僕「マジかよw」
僕「けど、いろいろいい経験できたよな。たくさん助けてもらったし」
T「福島でご飯ご馳走になったときは、涙でたね」
僕「うん、あの日も雨寒かったしなぁ…」
語る思い出には事欠かない。11日間も旅を共にしてきたのだ。
ぽつりぽつりと、蘇る記憶が口から出ていく。ああ、あっという間の日々だったな。
フェリーの時間になった。
函館の町を離れ、青森に着けばバラバラの帰路に着く。
僕「男二人が12日間片時も離れず一緒って、なかなかにキモかったよな笑」
T「うるせえ、お前にそういうこと言われたくないわ」
僕「まあ、これからはやっと一人で寝れるわけだ」
僕「今まで、ありがとな」
T「おう、おりがとう。お疲れ」
青森の街で別れ、僕らの旅は終わった。
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文章のみの長文でしたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!
この旅は自転車に出会ったきっかけであり、僕にとっての『ぼくのなつやすみ』的なひと夏の思い出です。記憶がなくならないうちに何かに残しておきたくて、ブログに書きました。
驚いたのは、書いていくうちにどんどん記憶が蘇ってきて、あの苦しさや興奮や心地よさが鮮明に思い出されたことです。それだけ僕にとって大きな出来事だったのでしょう。その感情や感覚が少しでも、読んでくださった方に伝わっていれば幸いです。
今後も自転車や登山など冒険の記録を綴っていきたいと思っているので、よければそちらもお楽しみください。
最後に、この旅を支えてくださった皆様、あの節は本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
おわり
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<シリーズまとめ>
友達『チャリで北海道まで行ったら面白そうじゃねw』からロードバイクを買い旅に出た話
【最終話】函館