自転車乗りにとって、携帯工具は悩みの尽きぬ話題だろう。市場には様々な製品があるが、なかなかベストな答えは見つからない。
より軽く、より収納しやすく、より使いやすく…。そんなサイクリストの願いから生まれた携帯工具の新星が、equipt(イクイプト)のSardine(サーディン)だ。
独特な形状と、こだわり抜いたルックスが目を引くハイエンド携帯工具。今回は、そのサーディンの実力に迫りたい。
<目次> 1.スペック 2.各部詳細 3.使用感 3-1.早回し⇒トルクが一連の動作で出来る 3-2.細身な形状で、扱いも収納も楽 3-3.見た目が良い 3-4.MAXトルクに注意 3-5.ビットの精度について 4.まとめ
1.スペック
それでは、早速サーディンの概要から見ていこう。
・ビット:六角3/4/5/6mm、T25
・サイズ:95mm x 14mm x 9mm ・公称重量:38g(実測も同じ) ・価格:7,400円(税込み) ・商品ページはこちら

equipt(イクイプト)は、日本の代理店Alternative Bicyclesを創設した北澤さんが、新たにメーカーとして立ち上げたブランドだ。
今やバイクパッキング系で定番となっているWolftoothやApiduraなど、先鋭的な製品を日本展開させてきた北澤さん。そんな代理店業を営む傍ら、「まだ無いものがある」「じゃあ自分たちで作ろう」と興したブランドだと言う。

equiptの第一弾として発売されたのが、携帯工具の『Sardine(サーディン)』。開発に3年半を要したらしい。
サーディンは、搭載する機能を絞った携帯工具だ。
自転車で使用頻度の高い、六角3/4/5/6mm、およびT25の合計5つのビットを厳選している。そのうえで、本体の軽量化も徹底し、38gという驚異的な軽量性を実現。一般的なフォールディング系のボックス型携帯工具が150g前後なのを考えると、38gは伊達ではない。
公称38g、実測値も同様だった。
PB Swissのビット式を基本に、同じ5種類のビットをそろえると49g。今まで最軽量級だと考えていたPB Swissのビット式から、20%ほど軽量化できている。

僕が普段使用しているのは、PB Swissのビット式。
持ち運んでいるビットは、サーディンと同じ「3/4/5/6/T25」の5つ。ざっくりした用途は以下の通りで、出先で必要となるのは殆どこの5種類でカバーできる。
僕がサーディンに興味を持ったのも、自分が必要と判断した5種がピンポイントで用意されていたからだ。
<必要> ・3mm:ボトルケージ、ケキャリア、ディレーラーハンガー、Equalブレーキ調整など ・4mm:ステム、ヘッドパーツ、シートクランプ、サドルクランプなど ・5mm:Shimanoブレーキ台座、DHバー、サドルクランプ、STI、RD、FDなど ・6mm:スルーアクスル ・T25:ステム、エアロバー、SRAMブレーキ台座、6ボルトローター、チェーンリングなど <基本的に不要> ・2mm:ディレーラー調整 ・2.5mm:SRAMブレーキパッド、サイコンマウント ・8mm:M30クランク、べダル ・プラス:ディレーラー調整、Cateyeブラケット ・マイナス:Shimanoブレーキパッド
携帯工具選びは、「何を持っていかないか」という引き算の発想だと思う。
自分のバイクに必要な工具を洗い出したのち、トラブルの可能性と携帯性を天秤にかけ、妥協できるものを家に置いていく作業だ。だから、携帯工具に絶対的な正解はなくて、自分が要求する機能にマッチしているか?という選び方が大切。
その点、サーディンは僕にとって、要求通り過不足のないものだった。
2.各部詳細
続いて、サーディンの詳細を見ていこう。

本体はアルミ削り出し。軽量でありながら、一体成型で強度がある。
クリスキングをイメージしたというカラーリングは美しく、所有欲も満たしてくれるルックスだ。

削り出しらしく、この加工線がたまらない。デザインはシンプルで、背中?にあたる部分に「equipt」の文字が刻まれるのみである。
この、洗練された雰囲気がたまらない。

両端に「4mm/5mm」と「3mm/T25」のビットが、中央には6mmのビットが配置される。この「真ん中にもビットを隠す」という発想は新しく、この形状で5つの工具をまとめるに至っている。
両端はくるくると回して使用し、6mmは指をひっかけて出す仕組み。ビットの固定力はちょうどよく、軽く操作できて、かつ勝手に動くことがない。


つい、片手に持ってくるくる回したり、6mmを引き出してみたり…と遊んでしまう感触。サイズも片手で持つのにちょうどよく、手の中で収まりが非常に良い。
工具は持ちやすさ・手に馴染む感触も重要なポイントで、個人的にサーディンはすごく気に入っている。
◎分解してみた
サーディンはその構造にもこだわりが見えたので、分解した中身もご紹介したい。ビットを固定するネジは、両側ともに六角1.5mmだった。
画像の様に、ビットの片側にウェーブワッシャーが組み込まれており、それで小気味よいビットの固定・回転感を演出している。
左右から止めているネジは、あくまでビットが抜けない様にするためのもので、実はネジがなくとも同じ回転感で使えてしまう。ビットの回転感は、完全に本体の精度とウェーブワッシャーによって成り立っているらしい。
いわゆるボックス型の携帯工具は、左右からの固定ネジの締め具合で、各レンチを取り出す硬さを調整している。だから走行振動などでネジが緩めば、当然レンチがゆるゆるで使いにくかった。その点サーディンは、ビットの硬さ調整が本体とビット・ウェーブワッシャーで完結しているので、ネジが緩んで使いにくくなる懸念がない。
ビットにトルクを掛けた際にも、基本的にネジには力がかからない構造になっているようだ。固定ネジも小型なもので済むので、そこも軽量化に一躍買っているのだろうか?
あくまでいちユーザーの考察だが、こうして設計意図が垣間見える製品はとても好きだ。

ちょっと補足すると、固定ネジにはゆるみ止めの類がなかったので、僕は念のためロックタイトを塗っておいた。最悪抜けてもサーディンは使えるけど、グラベルなど振動の多い場所もよく走るので、塗っておいた方が安心だろう。
*追記:現在販売しているものは、ロックタイトを塗布してから発送しているそうです。今後、細かな点の仕様変更の可能性もありますので、正確な情報は購入時にAlternative Bicyclesさんにお問い合わせください。

3.使用感
では、続いて実際に使用してみての感想を。まだ使用期間が浅いので暫定的ではあるけれど、現状感じていることをいろいろと書いていきたい。
3-1.早回し⇒トルクが一連の動作で出来る
サーディンの凄いところは、かなりの軽量化を図りながら、使いやすさも一級品だということ。ボルトの回しやすさでいえば、この構造は普通のL字型レンチ以上だろう。
ビットをボルトに差し込んだまま、トルク(1枚目)も、早回し(2枚目)もシームレスに行える。
お陰で作業性が高く、ボックス型の携帯工具とは、もはや比較にならないほど使いやすい。
この様に工具が当たってしまった際も、画像2~3枚目の様に本体を180°反転させることで、ビットを差し込んだまま使えてしまう。
サーディンの使い勝手はラチェットレンチに近いものがあり、その点においては普通のL字レンチよりむしろ楽。「携帯工具にしては使いやすいんだろうな」程度にしか考えていなかったので、正直驚いた。

もちろん、細身な形状を活かして、込み入った部分の作業も得意だ。ボトルケージ周りやサイコンの近くなど、携帯工具が入りにくい部分でも十分に使用できる。
逆に何かネガティブにいうのであれば、ビットの先端からグリップまでの距離が近いので、普通のL字レンチよりも手が障害物に当たりやすいかも知れない。…まあ、ここまで言い出すとキリがないし、粗探しをしている様な意見だとは思う。
3-2.細身な形状で、扱いも収納も楽
サーディンの素晴らしいところは、携帯性にも優れているという点。携帯工具は、当然「携帯」するものだから、持ち運びやすい必要がある。
スイスアーミーナイフのようなボックス型は嵩張るし、独立したビットを持ち運ぶタイプはバラバラになって鬱陶しい。もちろん、それぞれ許容範囲ではあったけれど、最高かと問われれば何とも言い難いところだった。
サーディンはサイズも形状も、かなり携帯しやすい。画像から「もっと大きいのでは?」と思っていたけれど、ボディが95mm、ビットをまっすぐに出しても114mmと、意外とコンパクトだ。
350mlサイズのツール缶にも丁度入るし、フレームバッグのサイドポケットにもすっぽり。棒状で角のないシルエットだから、収納の自由度は高いだろう。
サーディンは使い勝手だけでなく、収納性もピカイチだと思う。

まだ在庫がないらしく僕の手元には届いていないけど、専用のホルダー(別売:1,500円)も用意されているらしい。
携帯工具をホルダーで運搬するというのも珍しく、パッキングの幅が広がるかもと期待がある。固定力や使い勝手など気になるところは多いので、できれば追ってレビューしたい。
3-3.見た目もいい感じ
携帯工具としての性能とは関係のない部分だけど、サーディンは見た目もカッコよくて気に入っている。夜にお酒を呑みながら、ついつい眺め片手でいじってしまうギアだ。

何気なくアウトドア用具と並べてみたけど、なかなかマッチしている。
Sardine=イワシという名前も納得な、愛嬌もある形状。そして美しいカラーリングとギミック。高価ではあるけれど、所有欲を満たしてくれる携帯工具というものに初めて出会った。

カラーの話をすると、屋外で落としてしまった際、サーディンはかなり目立つのが実用的でいいところ。黒やシルバーの工具は無くしやすいし、ビット式なんて草むらに落とすと一生見つからない。笑
3-4.MAXトルクに注意
少し注意点を書いていくと、サーディンは耐えられる最大トルクが一般的な工具にくらべて低いと思われる。
あくまで目安でしかないけど、北澤さん曰く「左右のビットは最大7Nm程度、真ん中の6mmは10Nm程度までが妥当」とのこと。もちろん、もっと高いトルクでもテスト済みだそうだけど、本体の構造上、そこまで大きなトルクをかけて使用するものではない。

自転車のパーツは大抵5Nm程度だし、スルーアクスルも10Nm前後。僕も手持ちのバイクで試してみたけど、10Nmくらいまでなら特に問題なかった。ただし、やはりこの辺りが限界かな…という感触もあったので、前述のトルクが現実的なラインだと感じる。
また、6mmを使用する場合、左右のビットに比べて実質的にレンチが短くなり、大きなトルクはかけにくくなる。僕の握力では全然問題なかったけど、ひょっとすると力の弱い女性等は注意が必要かも?知れない。
最大トルクの関係で困るとすれば、次のもの辺りだろうか。
・ペダル:35Nm前後 ・ShimanoホローテックⅡクランク:12-14Nm ・サドルクランプ:8Nm前後(製品によってまちまち)
もしこれらの用途で使いたい場合は、注意していただきたい。特にペダルはかなり厳しいので、別途フルサイズのレンチが必要となる。
軽量さに特化したサーディンなので、はやりこの辺りはトレードオフ。使用する際には、製品の特性を理解する必要があるだろう。
3-5.ビットの精度について
最後に、ビットの精度について少し。精度の測定器具はないので、あくまで手持ちのボルトに差し込んでみた感触でしかないことは、ご理解いただきたい。
そのうえで書きたいのは、普段使っているEightの工具(テーパーヘッド ヘキサレンチ タクミ)と比べると、ボルトとの噛み合わせがやや甘いと感じたこと。特に、いつも使っている4mmで、かつ掛かりの浅いボルトで感じた。画像からも、コンマ数mm先端の形状が異なるのがお分かりいただけると思う(PB Swissが錆びて見辛く、すみません)。
これはサーディンが悪いとか使えないと言いたい訳ではなく、あくまで「携帯工具」というジャンルの製品だと強調しておきたくて書いている。普通のL字型レンチより使いやすいギミックで、つい製品としての役割を忘れてしまいそうだけど、そこは勘違いしてはいけない部分だろう。
裏を返せば、この精度がさらに上がれば、言う事がなくなるだろうなとも思う。
4.まとめ
以上、equiptの携帯工具「Sardine(サーディン)」をレビューしてみた。
画期的な構造で、「軽い・使いやすい・収納しやすい」と、3拍子そろった携帯工具になっている。魅力的なルックスも相まって、携帯工具として非常に満足度の高い製品だ。
個人的には「欲しかったけど、形が見えていなかったもの」がこうして手元にあることに感動するし、よくぞ製品化してくださったと思う。北澤さんの設計の良さと製品化の努力には、本当に脱帽だ。

先に書いた通り、携帯工具は「自分のリスク管理」を形にしたもの。サーディンは付属する機能を絞っているし、携帯工具というジャンルで洗練させたギアだと思う。
僕の感覚では、初心者に勧める万能工具ではなく、サイクリングの形が定まった玄人向けの工具だろう。携帯工具にも拘りが出てきて、かつ要求するスペックがサーディンと同じなら、ぜひ手に取って頂きたい製品だ。
このレビューが、皆様の役に立てば幸いだ。
おわり
