冷たい風の吹き出した10月中旬、宮城県の林道へ1泊2日のバイクパッキングへ出かけた。天気予報は完全な雨だけど、雨の林道も嫌いじゃない…というか寧ろ好きだ。
タイトル通りトラブルは多かったけど、しっとりとしたロングダートを楽しんだ様子をお届けしたい。
<目次> 1.今回のパッキング 2.雨のグラベルを駆ける 3.熊に遭遇&BB死亡 4.雨音を聞きながらキャンプ 5.なんとか帰宅
1.今回のパッキング
さて、まずはライドの計画とパッキングからご紹介。
ライドは宮城県の北側に位置する「加美町」周辺。この一帯は良い感じのグラベルが多く、温泉施設も多いとこんなライドには最高だ。
1泊2日で200~300㎞のルートを引いておいた。走り方で距離を調節できるので、時間をみつつ適当にする計画。
<使用機材> ・バイク:Bombtrack/Hook EXT ・ホイール:WTB 650b ・タイヤ:WTB/Venture(F),Byway(R) ・サドルバッグ:Apidura/Expedition Saddle Pack(9L) ・フレームバッグ:Apidura/Expedition Frame Pack(4L) ・トップチューブバッグ:Apidura/Racing Long Toptube Pack(2L) ・ハンドルバッグ:Apidura/Backcountry Handlebar Bag(11L),Accessory Pocket(4L) ・ダウンチューブバッグ:Apidura/Backcountry Downtube Pack(1.8L) ・フォーク横:Daigo Gear/Front Fork Holder ・フォーク横:Problem solvers/bow tie strap anchor kit ・泥除け:Ass Savers/Fendor Bendor Big
Apidura(アピデュラ)のバッグを基本に、フォーク横にはより軽量で使い勝手のいいギアをチョイス。右に付いているのがDaigo Gearといって醍醐漫さんの自作ギアを買い取らせていただいたもの。
中身はダブルウォールの山岳テントをはじめ、自炊道具も含めてフル装備。雨なので、着替えも多めに持ってきている。
ハンドルバーバッグとアクセサリーポケットは今回が初めての本格運用。結果的に期待以上に良くて、かなり気に入った。
特にアクセサリーポケットは、一眼から補給食まで何でも突っ込んで置けて、防水性もかなり高いのが◎。これ単体で使用したいくらい。
身体には、Salomonのトレラン用ベスト「Sence Pro 5」を着用。ハイドレーションのほか、補給食その他をフレキシブルに装着できる。いわばサイクルジャージのバックポケットが全身に付いた感じ。(笑)
今回のライドの様子は、動画にもまとめていてYoutubeに公開している。
よろしければ、こちらも合わせてどうぞ。
2.雨のグラベルを駆ける
自宅から目的のエリアまでサクッと自走し、いよいよ森の中へと踏み入る。
雨と霧が混ざったような日で、とにかく視界が悪い。目指す山もすっかり濃い霧に覆われていた。
晴天のグラベルもいいけれど、これはこれで楽しいもの。そんな真っ白な世界に飛び込んでいくのも面白いじゃないか。グラベルというだけで非日常感があるけれど、それがこんな状態なら、もう完全に異世界だ。
降りしきる雨が、道を川に変える。
ゴツゴツとした小石が浮き彫りになり、グリップはし易いが振動は増す。水路から頭を出している部分を飛び飛びにつたい、スピードを落とさない意識でパワーを掛ける。
こういうラフな路面のときは、下手に低速で凹凸にやられるより高速で走って滞空時間を稼いだほうが楽だ。……いや、多分350W以上は出し続けているから全然楽じゃないけど。
オフロードを抜け、林道を抜け、またオフロードへ。終わりのない森を走り続ける。
山奥へ踏み入るにつれ、霧が濃くなり雨は木々に遮られて身体に落ちてこなくなった。頭上の枝葉に雨粒が落ちる音が僕とバイクを包み込み、タイヤのグリップする音だけが微かに聞こえるだろうか。
ああ、ここで何かあっても多分見つかるのは相当後だろうなぁ。そんな感覚が、何故かペダルを踏む力を強くする。
雨の林道は美しい。
雫にきらめく草木に、外界を遮断する雨音。ここだけが別世界の様な、完全な一人になっている実感がいい。
僕は一人が好きだ。
いや、別にそれは誰かと走るのが嫌いという意味じゃない。そうじゃなく、好きなものの1つが一人なんだ。
ノイズが無くなって、この身と周りの自然と、それを繋ぐバイクの駆動に集中できる。上がる心拍と呼吸を感じ、水に満たされた森に包まれ、ペダルに伝えた力が推進力に変わる……この感触が堪らない。
3.熊に遭遇&BB死亡
とはいえ、ソロはやっぱり危険が伴う。
写真にもGoproにも撮ってはいなかったけど、ツキノワグマの親子にばったり遭遇した。
不思議なもので、何度も熊に逢っていると「この辺は熊出そうだなぁ」という雰囲気が分かってくる。周囲の草木の感じとか、地形とか、町との距離とか……巧く言葉に出来ないけど、何となく雰囲気で警戒する。このときもそうだった。
緩い左コーナーを曲がると、その先にうごめく真っ黒な物体。
すかさずフルブレーキで止まるが、向こうもブレーキ音に驚いたのか瞬く間に草むらに消えていった。四つん這いの成人男性より一回り大きい影と、後を追うように柴犬くらいの陰がぴょこぴょこと跳ねながら消える。
道は譲ってもらえたけど、子連れの熊を刺激したくないのでおとなしく引き返す。無駄な争いは避けたい。とりあえずグラベルを抜け、多少は人の気配がある林道に復帰した。
と、そこで足回りの異変に気が付く。どうも左クランクを踏んだ時に嫌な感触と音がする。
始めはスプロケやプーリー周りに噛み込んだゴミを疑ったけど、完全にクランクの動きにリンクしているからそれは無い。
「頼むからやめてくれよ」とチェーンを外してクランクだけを回すと、明らかに良くない「ミシッ、ゴリゴリッ」という異音…。BBー正確には左ベアリングが終わったらしい。
霧に覆われた虚無に向かって一言悪態をつくが、この現状は変わらない。もう一本グラベルを抜けてやろうと思っていたけど、このBBで走るのはちょっとNGだろう。
いや、別にBBはどうせ交換するからベアリングが割れようがもう関係ないんだけど、まだ僅かにある別の可能性(フレーム側にダメージを負う異変)の場合、非常にマズイ。このHook EXTは、特に壊すわけにはいかないバイクだ。
4.雨音を聞きながらキャンプ
そーっとキャンプ場に移動して、今夜の寝床をこしらえた。
今日は100km、1,600mほど。
ありがたいことに、ちょうど雨脚が弱まり荷物をほぼ濡らすことなく設営が完了した。
コンビ二に寄ってからキャンプにする予定だったけど、むやみに走れない状態なので手持ちのごはんで何とかする。
主食はα米に「畑のカレー」をぶち込んだもの。見た目はさておき、この畑のカレーは普段から食べてしまうほど本当においしいのでお勧めしたい。(カレー通というあのTom’s cyclingのお二人も絶賛していた笑)
「非常食」とか言って買い込み、気づけば深夜にケトルでお湯を沸かして食べてしまう罪深い食料だけど、こんなテント泊も幸せにしてくれる神である。
今日はカナディアンクラブ(ウイスキー)も満タンにしてきたから、長い夜も退屈しない。このチタンスキットルもAmazonの激安のだけど買って良かった(レビューはこちら)。
ぱらぱらとテントのフライシートを雨粒が打つ音に耳を傾けつつ、つまみに買ったせんべいをぼりぼりと。
明日の帰路を難儀しつつ、夜を明かした。
5.なんとか帰宅
翌朝。
夜分も結構降ったけど、簡易シェルターではなく本格テントで来たので快適な眠りだった。
今日も昨日の続きでグラベルをごりごり走る予定だったけど、例によってBBが終わっているので無理が出来ない。こんな時に限って輪行袋を持ってきていないし、自走するにはちょっと自宅が遠すぎる。
のんびり朝のコーヒーを飲みながら、どうしたもんかと対策を進めた。保険のロードサービスやタクシーに連絡し、声をかけて下さったTwitterのフォロワーさんにもご連絡。
結局、帰路の道中で家族と落ち合いピックアップしてもらうことにした。
泥が乾き、汚れが浮き彫りになったバイク。バイクパッキングはこんな姿が好き。
旅の終着点まで、クランク周りに負担をかけない様に流す。
本当に情けなくて嫌になる終わり方だけど、万全の準備をしていなかった自分の責任だ。グラベルロードのパーツ消耗は、ロードの2倍以上のスピードで進んでいるので、他のパーツからも想像してBBを交換してからライドに臨むべきだった。それに保険として、輪行袋は持つべきだった。
恥ずかしい失敗談だけれど、こんな経験も皆様の為になれば幸いだと思う。
バイクやバッグの構成は良い感じで、試したかったギアやウェアへの知見もまた広がったのは良かった。走り切れなかった雨のグラベルは、またバイクパッキングでリベンジしよう。
おわり