新たな自転車のジャンルとして「グラベルロード」が登場してから、もうしばらく経つ。今やどのブランドもグラベル系をラインナップし、1台目のスポーツバイクとして、あるいはロードバイクやMTBからの2,3台目として、選択肢に入れている方も多いだろう。
そこで生まれる疑問「グラベルロードって実際どうよ?」という話を、ロードバイク⇒MTB⇒グラベルロードと増車していった僕の経験をもとに、あえてちょっと否定的な目線で書いていきたいと思う。
<目次> 1.「グラベルロード」にもいろいろある 2.良いとこ取り?中途半端? 2-1.ロードバイクと比べて 2-2.MTBと比べて 3.買って後悔しそうなこと 3-1.オフロードの遊び場がない 3-2.仲間と合わせにくい 3-3.方向性を見失いそう 4.「遊びの手段」が欲しい人におススメ
1.「グラベルロード」にもいろいろある
最初にお断り的な内容になるけど、「グラベルロード」という言葉がさすバイクにも沢山の種類があり、性能も特徴も千差万別であるということを頭に入れておいて頂きたい。
例えばロードバイクについて語るときも、クロモリバイクとカーボンロードを一緒くたに「レースで活躍できます!」とか「ロングライドに向いてます!」みたいには言えないだろう。
そんな風に、今やグラベルロードにもいろいろな種類がある。軽量でジオメトリもロードバイクに似ているレーシーなものから、旅仕様の頑丈なバイク、MTBに近くオフロードが得意な設計のバイクまで。。この記事はあくまで、ざっくりとした「グラベルロード」を指して書いていくので、ものによっては当てはまらないこともあるだろう。
また、僕が乗ってきた経験に基づいて書くので、あくまで僕の主観だ。
乗っているバイクは、クロモリフレーム&カーボンフォークの『Bombtrack:Hook EXT 2021』というモデルで、バイクパッキング系の「レーシーな旅車」という感じ。その辺りも踏まえて、この記事をご覧いただければと思う。(バイクの紹介記事はこちら)
2.良いとこ取り?中途半端?
では早速本題に。
グラベルロードは、よくメディアで「ロードバイクとMTBの良いところ取りをしたバイク」とか「なんでも使える万能さ」なんて表現されると思う。確かにその通りで、オフロードもイケるロードバイクであり、舗装路も軽快に走れるMTBだ。
しかし、裏を返せばそれは「何にも特化していない中途半端な性能のバイク」ともいえる。
僕はこの否定・肯定の両方の意見に賛同するし、実際に走りながらもそうだと思う。なんでも使えて面白いけど、中途半端で物足りなさもあるのだ。
2-1.ロードバイクと比べてどうか?
僕はロードバイクでは主にロングライドを楽しんでいて、日常的には空き時間に高強度で走り身体を動かすフィットネス・トレーニング的な用途にも使っている。
「レースに出るわけじゃないならグラベルロードでもいいんじゃ?」と言われそうだけど、この役割はグラベルロードでは代替できないと最近強く感じている。理由は単純、『ロードバイクの方が速くて爽快だから』。
別にグラベルロードが遅いとかダメだといっているんじゃなく、むしろ僕は初めてグラベルロードを手にしたとき「こんな良く走るものなのか!」と驚いたし、それこそホイールを変えたりすれば、これ1台で十分じゃないかと思ったほどだ。
しかし、やっぱり舗装路専用バイクの方がアスファルトの上なら楽だし速い。重量やパーツ構成などのバイクの仕上がりは当然ながら、ジオメトリやポジション、剛性といったフレームそのものの設計が異なるのだ。そういう総合的な最適化の積み重ねがロードバイクの「爽快感」を生むのだと思うし、グラベルロードはそこに及ばない。
もう少し数値的な話をすると、僕の中でグラベルロードは、平坦巡行にしろヒルクライムにしろ少なくとも10%は遅くなるイメージ。例えば、ロードバイクで平坦35㎞/h→グラベルバイクは31㎞/h、峠のタイムが20分→22分半以上……という感じだ。
肯定的に言えばその程度の差でしかないので、正直ハイレベルな走りじゃない限りロードバイクの集団にもグラベルロードでついて行けちゃうと思う。現に、ツーリングならカーボンロードと一緒に走っても全く問題なかった。元も子も無い話だけど、相対的なスピードに関しては乗り手の脚力に依存する部分が大きい。
逆に否定的にいうなら、常に10%のロスをし続けているのがもどかしい。僕は他人と比較して速いかより、自分が昔より成長できているかや感覚として気持ちよく走れるかを大切にしていて、だからこそレースには出ないけどロードバイクは手放せないと思う。
レースに興味がある方はもちろん、ロングライド志向の方も含めて、「より早く」「より気持ちよく」という向上志向のある方は、ロードバイクの方が幸せになれるだろう。
一方、ロングライドや旅に視点を変えて「泊まりの積載が前提のツーリング」に焦点を当てるなら、ロードバイクではなくグラベルロード(なかでも旅系のやつ)が良いと思う。
積載を考慮していないロードバイクに荷物を積むと走行感が悲惨になるし、バイクへの負担も過剰になってしまう。特にキャンプツーリングなど荷物を積むことを想定するなら、圧倒的にグラベルロードが良い。ロードバイクに無理くりバイクパッキングしてきた僕だからこそ、あれは全くおススメできない。
2-2.MTBと比べてどうか?
話は変わって、MTBとの比較について。
申し訳ないけれど僕のMTBの使い方は限定的で、グラベルバイクと似た使い方をしているんじゃないかなと思う。林道やトレイルに自走で行ったり、キャンプライドをしたりという感じだ。専用コースをゴリゴリ下るようなことはしていなくて、偶に練習でパンプの様なコースを走ったりした程度。
そんな僕でも思うのは、MTBとグラベルバイクじゃ走破性が桁違いであること。
グラベルバイクは所詮「グラベル=砂利道」用なので、難易度の高い道を走るのは厳しい。いくらドロハンを幅広にしたところでフラットバーには敵わないし、タイヤだってMTBの方がより大きくブロックのあるものを履ける。言わずもがな、サスペンションというチートを使えるのもMTBの特権だ(最近はグラベル用サスペンションも増えてきたけど、トラベル量が異なるしMTBとは別ものである)。
ジオメトリも全然違って、歩くのも大変な斜度や路面を走るときはMTBじゃないと僕は怖くて乗れない。上手い人は何に乗っても上手いから、グラベルロードでもトレイルを走れるんだろうけど……「楽に」「速く」「安全に」を求めるならMTBだと思う。
ガレ場や30%の急斜面が多い日本の森の中を走ることだけに特化するなら、あえてグラベルロードを選ぶメリットはほぼないんじゃないだろうか?
ただし、ガレおらず起伏が激しくないグラベルなら、MTBよりグラベルロードの方が速いし楽しい。車も頻繁に入るダブルトラック、河川敷や海岸のフラットダート等、MTBよりも優位になる未舗装路だってもちろんある。日本の道路環境的にはMTBの方が楽しく走れる未舗装路が多いというだけで、必ずしもMTBが万能で最適という訳でもないだろう。
また、オンロードでの走行性能は圧倒的にグラベルロードの方が高い。僕はMTBでの舗装路は数十㎞で嫌になってくるけど、グラベルロードなら数百㎞のロングライドでもいける。
車でトレイルやMTBパークに行けるならMTBを選んだ方が幸せだと僕は思うものの、自走を考えるならグラベルロードは非常に良いバランスだ。
自走派である僕が最近MTBではなくグラベルロードにばかり乗っているのは、この舗装路の走破性にある。異常なまでに道路が舗装されている日本だからこそ、MTBよりもグラベルロードは輝ける。
3.買って後悔しそうなこと
さて、では話をもう一歩踏み込んで、「グラベルロードを買って楽しめるのか?」というのを。
もちろん、見た目が好きだとか、何となく気に入ったからとか、憧れの人が乗っているからとか……そんな理由で愛車を選ぶのも素敵だ。一番大事なのは自分が乗りたいバイクに乗ることなので、欲しいバイクがあるなら楽しめるか?なんて考えずに乗るべきだと思う。(笑)
とはいえこの記事をご覧になっているということは、少なからずグラベルロードという選択を悩んでいらっしゃる方が多数だろう。僕なりに、グラベルロードを買った方がぶつかりそうな壁を羅列してみた。
3-1.(オフロードの)遊び場がない
もしグラベルロードで「オフロードもガンガン楽しみたい!」と思っているなら、厳しい現実は理解しておくべきだろう。あえてきつい言い方をすると、日本のオフロード事情はとても複雑で、初心者が気軽に遊べる領域ではないと僕は思う。
もちろん地域やレベルによる話ではあるけれど、そもそも未舗装路が非常に少ないうえ(MTBならまだしもグラベルロードで楽しめる道は更に少ない)、立ち入り禁止区域が多く、ハイカーや地権者とのトラブルになる可能性もはらんでいる。
周りを気にせず楽しめるような道もあるけれど、そこに至るまでの道のりも険しく、それなりに走れる脚力やマネジメント能力も求められてくる。
詳しくはこちらの記事に書いているのでご覧頂きたいのだけど、まず自分が手軽に楽しめるオフロードを見つけるところが凄く大変だ。だからこそショップで購入し、購入前に遊び場を教えてもらえるか等ちゃんと確認しておくべきだと思う。
3-2.仲間と合わせにくい
もし「誰かと走る」のを大事にしたい方なら、一緒に走るグループ選びに苦労するかも知れない。
世の中はまだまだロードバイク乗りが多いし、グループライドをしましょう的な話になるのもロードバイク界隈の方が活発な様に見受けられる(これは完全なる偏見だけど……)。前述の通りある程度脚力があれば問題ないんだけど、初心者がグラベルロードに乗ってロードバイク集団と走るのは脚力的に大変だろう。
それに、折角グラベルバイクを買ってグラベルライドをしたい!と思っても、一緒に行く人を見つけにくい。グラベル系はどちらかと言えばクローズドなコミュニティが多く敷居が高い印象もあると思う。
こんな事をいうと更にその傾向を加速させてしまいそうで嫌だけれど、現状はグラベル系の人は割と「ソロも楽しい、というかむしろソロの方が好き」という人種が多いんじゃないだろうか。かくいう僕も、こんなブログのタイトルを付けるくらいソロばっかりだ。
3-3.方向性を見失いそう
「中途半端」の行き着く先は、「どう使っていいか分からない」だと僕は思う。ロードバイクなら舗装路をガンガン行けばいいし、MTBならオフロードに全振りして遊べばいい。
じゃあグラベルロードは?といわれると、なんでも出来るけど何かが100点な訳でもないから、方向性に迷ってしまう。
人は選択肢が多いと決められなくなる~云々は営業テクなんかでも良く言われるけれど、それと同じようなことが起こりうる。
まだまだ未開拓で発展途上な分野だからこそ、お手本を目指す様な使い方はどこかで頭打ちになるんじゃないだろうか。
4.「遊びの手段」が欲しい人におススメ
最後に、「じゃあどんな人ならグラベルロードを買って幸せになれるのよ?」というのを僕なりに少し。
現状、僕がグラベルロードをおすすめする方は『遊びの手段が欲しい方』だ。
童心に返ってワクワクする冒険とか、逆にアウトドアで身体を動かしてビールを流すみたいな大人の時間とか、そういう自分の遊びのために使う道具が欲しい方。もちろん街乗りで日常の脚として使ってもいいんだけど、その中にも寄り道したり走りを楽しんだり……という遊び心を加えたい方。
それ単体で遊び方を示してくれる道具でないからこそ、使い手が意味を与えてあげられる環境でこそ輝くバイクなんじゃないだろうか。
以前、こんな記事を書いたりもした。(↓)
何かに特化し突き詰めようとすると、どうしても日本の環境だとロードバイクやMTBに軍配が上がると思う。街乗りならクロスバイクが優秀だし。
じゃあグラベルロードは何がいいのか?というと、冒険心や遊び心に満ちていること。ロードより舗装路はラフに流して、MTBより未舗装路はエキサイティングに。そんな面白さが僕は好きだ。
グラベルロードに対して、結構否定的な書き方をしてしまったかも知れない。
でも僕はグラベルロードが大好きだし、このバイクを手に入れてからというもの、乗っている距離も時間もグラベルロードが一番多い。そのくらい何でもできて、超面白いバイクなのだ。
先日の秋田バイクパッキング旅も凄く楽しかったし、雪の中をわちゃわちゃ走ったり、グラベルで限界突破したり……。遊びの世界がグッと広がった。
きっとハマる方にはハマるバイクだと思うので、ご自身の用途やタイプを見極めて、選んでいただければと思う。この記事が、皆様のバイク選びの参考になれば幸いだ。
おわり