グラベルロードで定番となった名作タイヤ『Panaracer:Gravel King(パナレーサー:グラベルキング)』。
その人気から用途に応じて様々なバリエーションが用意されているが、今回は新作の『セミスリック:SS』を購入してみた。舗装路から未舗装路での使用感や、クリンチャーとチューブレスレディでの違いなど、あれこれと使ってみたインプレを書いていきたい。
<目次>
1.スペック
2.舗装路インプレ
2-1.しなやかで良く転がる
2-2.登坂性能と下り
2-3.「ひげ」が邪魔
3.未舗装路インプレ
3-1.河川敷グラベルが超早い
3-2.荒れた林道
3-3.泥は苦手
4.日本の環境に最高のステータス
1.スペック
パナレーサーは1950年代から自転車用のタイヤやチューブを作り続けてきた日本のメーカー。ロードバイク用タイヤの「Race」シリーズや、軽量チューブの定番となっている「R’Air」は自転車乗りならきっとご存じだろう。
「Gravel King(グラベルキング)」もパナレーサーの看板商品の1つで、各社の完成車から海外の有名レーサーまでが使っている定番のグラベル用タイヤだ。もともとロングライド系でスリック版のグラベルキングに定評があったけど、昨今のグラベルブームで多様なラインナップを揃える様になり、人気に火が付いた印象がある。
グラベルキングのラインナップには、
・Gravel King (無印):スリック。ブロックのないツルツル表面 ・Gravel King SK:セミノブ。全体的に細かなブロック ・Gravel King SS:セミスリック。センターはスリックで、サイドにはブロック
の3種類のパターンがある。また、モデルによっては「Plus」といって耐パンク性能を高めたものや、チューブレス対応の可否などでさらに細かな選択が出来る。
今回僕が購入したのは「SS」の700×38cで、チューブレス対応のもの。
タイヤ表面にブロックが多いほどオフロードの走行が得意になる反面、オンロードでは走行抵抗が増してしまい走りにくい。このSSは、オフロードが得意な「SK」とオンロードが得意な無印グラベルキングの良いとこ取りをしたイメージだ。
タイヤ重量は公称410gで、僕の手元にきたものを測ると403gと405g。
重量は個体差が出るものだけど、軽い方に出ているのは嬉しいところ。変に重量でサバを読むメーカーも結構あるなかで、今までの経験からもパナレーサーはちゃんとしていて好印象。
「セミスリック」という名の通り、真ん中はほぼツルツルのスリック仕様。その横にダイヤ目のゾーンがあって、サイドには縦長のブロックが3列配置されている。
センターがスリックなので舗装路も良く転がり快適で、コーナリング等でグリップが欲しい場面ではサイドのノブが効いてくれる訳だ。
グラベルキングSSの前に履いていたタイヤは、WTBのByway(バイウェイ)というモデルで、これに近い設計思想・パターンだろうか。サイドのノブがBywayの方が高いけど、大体の構造は同じ。
Bywayも結構気に入っていたので、今回のグラベルキングSSも期待が持てる。
2.舗装路インプレ
バイクに装着後、オン・オフロードともにあちこち走ってみた。まずはオンロードでのインプレから。
2-1.しなやかで転がる
「グラベルキングはよく転がる」という前情報があって購入したこのタイヤだけど、確かに舗装路でもなかなかの性能。38c(実際は40c)と太めだからか漕ぎ出しの重さは感じるけれど、スピードに乗ってしまえばよく転がるし走っていて不快感は無くロードノイズも少ない。
試乗したグラベルキングSKも含め、センターにもブロックがあるタイヤだと少なからず常に振動を感じるし脚を止めたときに減速感が気になる。SSは気持ちよく走れるので、長距離のオンロードも結構快適にこなせる。
転がりもさることながら、サイドウォールが柔らかい?らしく、タイヤのしなやかさも印象的。
チューブを入れたクリンチャーで使うと分かりにくいけど、チューブレスだと路面の凹凸を綺麗にいなしてくれるのが良くわかる。アスファルトの荒れた場所でも安定した走りをするし、タイヤに圧を掛けたときの挙動も分かりやすい。
一応補足をすると、確かに舗装路でも非常に良く転がるし気持ちいいんだけど……あくまでそれはオフロードを見越したうえでの「良い」であって、例えばハイエンドのロード用タイヤとは別の趣旨のタイヤであることをお忘れなく。
オンロードのみで使うとちょっと過剰グリップな感じも否めないし、(詳しくは次に書くけど)全体がスリックのタイヤの方が快適だと思う。このタイヤが気になって記事をご覧いただいている方がどんな走りを想定しているか次第だけど、ほぼオンロードのみならまた違った選択肢もあるだろう。
客観的でない「転がる」という印象が、前提をすっ飛ばして独り歩きするのは避けたい。
2-2.登坂性能と下り
林道に向かうなら舗装路の登りは避けられないので、グラベル用タイヤには登坂性能も自ずと求められる。
その登坂性能についても、かなり高いレベルだと感じている。
いや、そりゃロードバイクの様な軽快さと比較したら劣るし重さを感じざるを得ないけれど、視界に入り込むタイヤの太さと走行時の感触が一致しない……そんな不思議な感じがする。太さのわりに軽量なのが効いているのかな?
下りに関しても、良く転がってしなやか、しかもグリップが良いとなればこれといって不満は無い。
ただ、先ほど「オンロードのみならスリックでいい」と書いたのは、サイド付近のブロックの感触が邪魔に感じるからだ。登りでダンシングしたときや、下りでバイクを倒していったときにブロックが当たるんだけど、、やっぱりスリックの方が軽いしコーナーでも扱いやすいと思う。細かい話ではあるし、気にならないという方もいるレベルだとは思うものの、一応参考までに。
2-3.「ひげ」が邪魔
タイヤを購入したとき、表面には成形跡である「ひげ」が沢山ついている。ぴょんぴょんと突き出している、5㎜くらいのアレである。
(↑)タイヤ表面につんつんと出ているやつが「ひげ」。
このひげは製造の過程でどうしても出来てしまうもので、通常走行ではさして問題はなく、使っているうちになくなるものらしい。正式名称は「スピュー」というだとか。
ただ、ある程度スピードに乗ってくると、このひげが「ファ~~~!」という風切り音で煩いし、空気抵抗になっている感じがして気になる。特に35㎞/hを越えてくるとその影響を顕著に感じ、鬱陶しくて仕方なかった。
大なり小なり走行抵抗になっているのは間違いないし、普通にうるさくてストレスだったのでカットした。
すると、煩かった風切り音は殆どなくなり、タイヤの感触もダイレクトに。僕は素人なので走行感についてはプラシーボ効果も否めないけれど、音に関しては間違いなく静かになって快適に。
1本1時間弱かかる大仕事だったけど、折角使うならカットするのをお勧めする。
3.未舗装路インプレ
続いては、未舗装路で使ってみた使用感をいろいろと。
3-1.河川敷グラベルが超速い
グラベルキングSSを使ってまず驚いたのが、河川敷の平坦グラベルが超速いという事。オンロードからダート区間へ突っ込んでいったとき、感じるべきであろう減速感がなく、同じギア比のままスーッと走り続けられる。
空気圧を下げないと砂利や埋まった岩の頭でタイヤをはじかれるかと思いきや、持ち前のしなやかさでそれをカバーし滑らかに進む。空気圧は3.0~3.7Barあたりをいろいろ試して走っているけど、割とそれぞれに良さを感じられる印象。バイクの振動も少なく、身体への負担も小さいので楽だ。(手に関してはRedshiftのサスペンションステムを使っていて、これがまた最高なのもあるけれど)。
舗装⇔未舗装の切り替えがスムーズ過ぎて、いまだに理解が追い付いてないし走っていてすごく楽しい。
細かい川砂が浮いた路面も十分イケる。それこそシルキーで極上にかっ飛ばせるグラベルだ。
タイヤサイズとかで変わるのかな?と思うのは、進行方向に波打つような凹凸への対応。僕のは700×40cなので結構いけるけど、細いほどにそういう地形への対処は難しくなるだろう。
3-2.ガれた林道はどうか?
続いては、林道グラベルについて。河川敷と違い地形が急峻だし、落石や倒木、木の根等の大きな障害物も多い。
木の根の多いシングルトラックからダブルトラックまで、空気圧は1.8~2.5Barでいろいろ走っている。
結論から言って、グラベルキングSSでも十分走れるし楽しめる。ただし「快適に」とか「安心して」と言うには、ちょっと僕にはテクニカルなのでタイヤ幅やブロックが欲しくなるかなと。
ここはやはり、同じグラベルキングならブロックの多い「SK」に軍配が上がるところだろうし、SSはオンロードとのバランスをとった結果だろうなと感じる。
(↑)今までの構成。前がWTBのVenture,後がByway、どちらも650b×47。
やっぱりエアボリューム的に700×40cでも衝撃を吸収しきれない場面があるし、コーナーでの安心感や雪解けでえぐれた地形をクリアするのに岩や砂利をもう一声掴んで欲しいと思う。WTBのタイヤの方が太いのもあるけど、サイドのブロックが高いので、タイヤの縁で路面をつかむ感じやコーナーでのグリップの安心感がもう1~2段上だった。
とはいえ、例えば登りでリアが空転してしまうとかは無いし、下りでもマージンを取って走れる。タイヤのコンパウンドのグリップは十分高く、転がりを重視したブロックパターンも加速がよくて面白い。
先ほど書いた通り、結論としては十分走れるし楽しい。こういう林道グラベルに特化したタイヤとしてではなく、林道グラベルもそつなくこなしてしまう恐ろしさに、このタイヤの魅力があるように思う。
(↑)特に編集した動画でなくて恐縮だけど、Goproをハンドルバーに直付けしてグラベルキングSSで走ったときの映像。下手な僕でも砂利~こぶし大の岩の道をこの位で走れるし、十分かなぁと(動画は緩い登りと下りのミックス)。
3-3.泥は苦手
まあ見るからに得意そうではないんだけど、グラベルキングSSはブロックが少なく小さいので、タイヤを取られる様なぬかるみは苦手だ。どうあがいてもスリップや空転してしまうので、持ち前の気持ちよい走りはどこへやら。
ともあれ日本の林道や河川敷は水はけの良い(逆にいうと浮いた砂利の多い)道が多く、泥区間があっても普通は短距離だからそんなに気にする必要はないよねとは思う。
僕もそんなシチュエーションに遭遇するのは稀なので、いつものコースがぬかるみやすいという方以外はそんなに気にする必要はない欠点だろう。
4.日本の環境に最高のステータス
以上、僕なりにグラベルキングSSの700×38c(622×40)のインプレ&レビューをしてみた。
オンロードも良く転がり、オフロードも河川敷から深い林道グラベルまで楽しく走れる、超バランスの良いタイヤだと思う。
ほぼ舗装路のみのツーリングタイヤとか、荒れたグラベルばっかり走るとかなら、それぞれに特化した更に高性能なタイヤは他にある。
だけど、『家の周り~河川敷グラベルを流しつつ、偶にはヒルクラ&林道グラベルも走る』とかなら、グラベルキングSSは全部を楽しくこなせると僕は思うし、幅広くおススメ出来る。たぶん日本の道路環境を考えると、このタイヤがマッチする方は沢山いらっしゃるんじゃないだろうか?
最後に、軒並み高価なグラベル用タイヤの中で、比較的安価なのも嬉しいポイント。グラベルロード乗りの方には、ぜひ試していただきたいタイヤだ。
おわり