「海から山頂を目指す」というチャレンジ『Sea to summit』。
一般的には海岸線に近い山で行うものだが、ちょっと一歩踏み出して本州の真ん中付近に位置する「燧ケ岳(ひうちがたけ)」へチャレンジしてみた。登山口までの自転車走行は約230㎞と、Sea to summitにしては長旅だ。
今回は友人との男二人旅。12月の雪山である東北の最高峰に、思い切り遊びにいってきた。
<目次> 1.計画と装備 2.いわきスタート! 3.度重なるハプニング 4.雪と星空のお出迎え
1.計画と装備
今回のSea to summitは、福島県の西部に位置する山『燧ケ岳』。標高2,356mで、東北で最も高い山でもある。
その燧ケ岳に同じく福島県の海沿いの町「いわき市」から、約230㎞の道のりを自転車で走り山頂を目指す。
普通に考えて、我ながら頭がおかしい遊びかなとは思う。冬山に自転車で行くというだけで意味不明ではあるけど、更に200㎞以上を自走して山頂を目指すのだ。(笑)
とはいえSea to summitはいろいろやっているし、何よりすごく面白い遊びだとも思う。
今回は久しぶりに会う友人とのライドで、どんな遊びをしようかと話をしているうちに少々無茶な計画を立ててしまった。(笑)
計画はこう。初日にいわき市から230㎞自走で登山口へ、そのまま1泊。翌日登頂し、下山ののち100㎞ほど流してキャンプ。3日目の朝に帰宅とう、2泊3日のツーリングだ。
彼とは一緒に少し無茶な遊びをしてきた仲なので、またこんな事が出来るのが嬉しい。
僕の装備はこんな感じ。バイクパッキングでロードバイクに登山具やらキャンプ道具やらを積載している。基本的にU.L.な装備選択をしているので、かなり限界まで道具を絞った構成だ。
山間部は降雪の可能性も高いので、僕のロードバイク(スペシャライズド:Roubaix)で履けるぎりぎり太いタイヤ「パナレーサー:CG-CX(32c)」をはかせている。
ウェアはモンベルのアルパインウェア(冬山登山用の服)を基本に選択。
一方、友人の装備はアルミロードにリアキャリア積載。
見た目には重そうだけど、実際の総重量は僕と大して変わらないし、むしろ使い勝手やコストパフォーマンスは圧倒的にこちらの方が上である。僕の見た目や好みを詰め込んだバイクパッキングに比べ、実用的で現実的な装備構成だ。タイヤはパナレーサーの「GravelKing 28c」。
スタート地点となるいわき市までは、前日の終電で輪行。いわき市のネットカフェで一泊し、翌朝スタートだ。
2.いわき市スタート!
快活クラブの無料モーニングを食べ、まずは海までウォーミングアップがてら流していく。日の出と同時ごろライドを開始しているけど、分厚い雲に覆われて朝焼けはお預けだった。
当日の天気予報は曇り。この先数日は低気圧が入ってきて天候が悪化する予定で、登山をする明日は雪になりそう。いちおう予報では今日までは持ってくれそうだけど、それも怪しいかも知れない。
さて、海に到着したところで、いよいよ燧ケ岳Sea to summitスタート!
ここから燧ケ岳の登山口までは大体220㎞、獲得標高は3,000mちょっと。まぁロングライドとして考えれば大したコースじゃないけど、重たい冬用の登山用具を持ってのライドとなると厳しさが増す。
翌日の登山のため体力を残すことを考えつつ、逆になるべく早く登山口に到着しておきたい気持ちもあってペース管理が難しい。
彼と一緒に走るのは久しぶりなので、お互いの体力レベルが把握できていない。僕の方が強いだろうというのは分かっているものの、実際どのくらいのペースがちょうどいいのだろう?と探りながらの走りとなった。
仕事終わりにローラーをして上げてきてくれたお陰か、予想していた以上に踏めている感じに見える。
福島は山の多い地形なので、軽い峠をいくつかこなしながら、じわりじわりと目当ての山へ近づいていく。海抜0mから山頂に至るまでの道のり全体を満喫する感覚は、Sea to summitならではの醍醐味だろう。
ハイカットの登山靴でのペダリングはぎこちなく、特にSPDシューズに比べてスタックハイトが高すぎるのが気持ち悪かった。少しずつ回し方を試行錯誤して、なんとか思い通りに走れるようにしていく。
雰囲気のある林道を、淡々と上り詰める。うんうん、良い感じ……。
登山の時間を考えて国道メインのルートを引いてしまったけど、やっぱりこういう道の方が走っていて楽しい。
3.度重なるハプニング
ライド自体は順調に見えたが、友人のバイクのキャリア周りでハプニングが起こった。走行の振動で、キャリアをフレームに固定するボルトが1本抜けてしまったのだ。
ボルトを探すも見つかる訳がなく、手持ちのスキーストラップで補修。このオレンジのストラップは度々僕のブログにも登場しているけど、こんな使い方も出来る本当に頼もしい道具だ。
キャリアをフレームに縛り付け、ひとまず走行は可能になった。やや不安が残るが、このまま先へ進む。
そうこうして日が暮れるころ、今度は雨が降ってきた。天気が崩れる方向なのはわかっていたけど、割と降られてしまったので路面の凍結が怖い。まだ気温は2℃くらいあるけど、これから下がっていくから走行できる制限時間が短くなってしまうのだ。
しかも、氷点下になる今夜のキャンプに際して装備が凍るのも困る。初めから雪なら楽だけど、雨ののち氷点下になると結構厄介……。
と、そこで再び友人のキャリアにトラブル。キャリアの固定が甘いまま走行したせいか、キャリアが歪んでタイヤに擦っている。
これまた困ったが、今は夜の山中で最寄り駅は峠を越えた40㎞ほど先……なんとかするしかない。自転車用のライトを咥えながら2人で四苦八苦し、一応走れるレベルにはすることができた。ここで引き返す案も話し合ったが、最悪パニアバックを輪行用の肩ひもで1つずつ背負えば走れるさと続行。
こうして文章に書いていると悲惨な状況だけど、それをどこか楽しんでいる自分がいた。僕はそういう意味で狂ってるんだろうなと思いつつ、今考えると余裕があっただけな気もする。体力・装備・補給、すべてにおいて大丈夫な自信があった。ハプニングがあるくらいが面白い。
計画は押しているし例によって凍結したら終わりなので、この後の最後の登りへ急ぐ。
友人はここまでの走行でかなり疲弊してきたようで、明らかにペースは落ちている。幸いトンネルが多く、ルートデータでの獲得標高よりも実際はかなり低く出てくれた。普段ならつまらないと愚痴をこぼしているところだが、ここは本当にありがたい。
4.雪と星空のお出迎え
いよいよ登山口が近づいてきたころ、周りのうっすらと白くなってきた。気温は0℃、ギリギリ間に合ったようだ。
「……そういえば雨も止んでたな」と一息ついて空を見上げた時、僕は思わず笑いながら空を指さした。
(↑)一眼を持って行かなかったので、その時の空は撮れませんでした。これは牡鹿半島のものですが、イメージとして。。
いつの間にか雨雲は晴れ、星が出ていたらしい。山奥なだけあって、文字通り「満天の星空」だ。あぁ、いろいろあったけど何とかここまで走ってきて良かったなぁ。。
ついに路面は雪と氷に覆われ走ることがままならなくなってきたが、ここまで来たら楽しく進む。
無理くり乗れるかチャレンジして遊んだり、「これが本当の ”冬のサイクリング” だ~!」なんて変な事を言ってみたり。(笑)
到着時間は遅れ、友人の体力消耗はかなりのレベルに見える。正直明日の登山は登頂できるか怪しいが、そんなことは割とどうでもよくなっていた。
こうして旅らしいライドをするのはいつぶりだろうか?経験が増え脚力が付くにつれ、我ながら自然とトラブルが減り苦戦しなくなったと思う。こんな行き当たりばったりで上手くいっていないのに、なぜか僕はそれが楽しかったのだ。
普段のソロツーリングにはない面白さで、なんだか僕の自転車との出会いを思い出させる1日だった。
つづく