秋田県と山形県に跨る名峰『鳥海山』。日本百名山にも数えられるこの山は、古くから山岳信仰の対象にもなっていた。
今回は、その鳥海山へソロ登山。せっかくなので鳥海山ブルーラインのヒルクライムも併せて、日本海からシートゥーサミット(海から山頂までの旅)に挑戦。夏も終わった10月2日、冠雪前の鳥海山を思う存分楽しんだ。
<目次> 1.スタートまで 2.ブルーラインヒルクライム 3.鉾立口から山頂へ! 4.のんびり走って帰宅
1.スタートまで
今回の計画は、深夜に山形から吹浦まで約120㎞自走し、明け方からシートゥーサミット開始。昼過ぎ下山し、山形県新庄まで再び自走し輪行で帰宅するというもの。
自転車パートはだいたい230㎞くらい、登山は鉾立(象潟)口から山頂までピストンでコースタイム合計は8時間前後だ。(コースタイムは登山道の目安となる休憩抜きの所要時間。)
装備はこんな感じ。登山用具も全てバイクにパッキングしてあるので、これで自分は何も背負っていない状態。
10月初旬の鳥海山は初冠雪を目前にした時期で、平野部はまだ20℃あっても、山頂付近は5℃くらいとなる。ビバークも想定し防寒着多めなので荷物が増えてしまったが、トレラン装備にすることで何とかこれで収まった。
さて、当日深夜。終電で山形へと輪行し、パッキングやらご飯やらを済ませていざ出発。前日は夕方に寝ておいたので、眠気はあるものの普通に走れる。深夜の国道を快速に飛ばしていく。
天気予報は曇りから回復方向のはずだったが、山あいでがっつり雨雲につかまった。登山も考えるとまだ着替えは出したくないし、装備も濡らしたくないので30分程雨宿り。想定よりも信号が少なく、Av.28㎞/hくらいで走れてい時間に余裕があったのが助かった。うとうとしながら小雨になるのを待つ。
雨雲が過ぎ去ってからは、十五夜の満月が雲の合間から顔をのぞかせていた。
それにしても満月は本当に明るい。一人で真っ暗な道をナイトライドしていると、その偉大さに驚き感謝するものだ。ライトを消しても十分走れる程明るく、その青白い光に照らされる安堵感……。それでいてどこか夜ではない異様さすらある。雨と霧の山道を抜けたのちの休息、昔の人々が満月の妖艶さに特別な意味を持たせたのがわかる気がした。
程なくして吹浦に到着、ここまで120㎞くらい。
ちょうど朝日も昇り、東の空が色づき始めた。コンビニでしっかりご飯を食べ、補給も多めに買い込む。鉾立口には自販機があるらしいが、以前そういうものを頼りにして痛い目を見たので、自販機はないものとして買い込む。水は飲み溜め+3.5L、補給は2,500㎉ほど。
2.ブルーラインヒルクライム
シートゥーサミットなので、海にタッチしてスタート。ブルーライン近くの浜辺に降りて日本海を拝んだ。
時刻は05:54。さあ、シートゥーサミットの始まりだ!!
ここから鳥海山の山頂(新山:2,236m)まで一気に駆け上がる。
自転車パートは鳥海山ブルーラインのヒルクライムで、海からだと距離20㎞、獲得標高は1,200mくらい、平均勾配は5~6%といったところ。
そんなにキツイ登りじゃないので、体力を温存しながらのんびりヒルクライム。買い込んだ補給が重いけど、斜度が緩くて路面が良いから助かった。
夜中の雨雲はどこへやら、頭上には青空が広がっている。朝日に照らされた木々の合間を抜け、空へと登っていく感覚が最高に気持ちよい。暑さも和らいだ季節、さわやかな朝の風を感じながら着実に高度を稼ぐ。
標高800mくらいからだろうか、木々が低くなり酒田方面に広がる街の景色が見えてきた。噂通りのいい眺望に思わずニヤリとする。
実は以前にもここは登っているんだけど、その時は濃霧と暴風で景色どころじゃなかった。きっちりリベンジも果たせて満足。
標高1,132mまで登ると、鉾立山荘と駐車場が見えてくる。立派な山荘と駐車場だ、ここからの眺めも最高。
到着は07:39、砂浜から1時間45分ほど。降車し写真を撮りながらゆっくり登ったけど、思いのほか悪くないペースだ。
続いては登山パートに移行するので、バイクを停めて靴を履き替えパッキングし……とあれこれ準備。バイクを停めておくのに良さそうな場所がなく、またパッキングで一回忘れ物をして結構なタイムロス。写真を撮ったりもあって25分くらいかけてしまった。
3.鉾立口から山頂へ!
さて、準備が整ったらいざ山頂へ。登りのコースタイムは4~5時間くらいらしい。
前情報通り、登山道はかなり良く整備されていて斜度も緩い。金曜日だからか登山者はまばらで、あいさつをしつつ先へ行かせてもらう。道幅が広いので追い抜きも安全かつ楽で、とても助かった。
生憎ガスが濃くなってきて、眺望はほぼなし。濡れた岩に注意しながらサクサクと登っていく。
一つ目の山荘がある御浜小屋には45分ほどで到着。トイレに手洗い場まであって凄い。
適宜補給をしつつ脚の様子も気にするが、幸いまだ余裕があるのでペースを維持して歩く。流石に走ると一瞬で脚が売り切れてしまうので、疲れないギリギリのラインで一定に……。
七五三掛を過ぎた分岐は左の千蛇谷のルートへ。いったん沢に降りてから尾根へ登っていくけど、尾根をぐるっと巻く右のルートよりも新山山頂へは近い。登山者の多くは右へ行っており、左に曲がった途端に他の登山者が少なくなった。この辺りから道が狭く斜度が急になり、登山道らしさが増してくる。うんうん、良い感じ。
時折パラパラと雨が降るが、ハードシェルを着込んでいるので何のことはない。筋肉を冷やさない様、ストレッチも織り交ぜながら歩く。
そして、山頂直下の御室小屋を過ぎると、山の風貌は一変した。
ふふふ、これは面白い。この、長年の月日に渡り風雨に削られ露になった岩々……。硬く、尖って、荒々しい大岩の塊。自分がちっぽけになるスケール感。
雨で滑るので、滑落しない様に三点支持を忘れず登り詰める。登山道のマークが沢山あって助かったが、最後にガスで山頂の方向が分からなくなり、他の登山者の方とうろうろ……。
そして……登頂!!
山頂到着は10:04、日本海からのシートゥーサミットで4時間10分!
道が良かったお陰で思っていたより好タイム。いえい。
ガスが薄くなってきた感じがしたので、山頂でしばらくおにぎりを食べながらのんびりと。
すると、ガスの切れ間からチラッと日本海が見えた。ふう、あそこから自力で来たのだと思うと、普通の登山とはまた違った達成感がある。多分誰も、僕が自転車で登ってきたなんて思っていないだろう。(笑)
山頂はまたすぐにガスってしまったし、帰りの自走もあるので下山。
頂上以外は晴れてきたようで、下山中の景色はとても良かった。雄大な鳥海山の眺めに見とれて転ばない様に気を付けながら、小走り気味に下っていく。
あぁ、なんて気持ちが良いのだろう?
こんな中を走れるなんて。まさに空中散歩。まるで空へと駆けていくような、そんな感覚があってトレイルランニングも面白い。実はトレランシューズを買って初めての山行だったけど、ゴツい登山靴では考えられない身軽さで山を楽しめた。
終始二ヤついていた気がするので、たぶん僕は相当へんな人だったろう。(笑)
鉾立山荘に戻ったのが12:09。登山のトータルタイムは4時間5分だった。
4.のんびり走って帰宅
バイクにパッキングをし直し、ダウンヒルののち帰路に着く。
鳥海山ブルーラインのダウンヒルは爽快で、眼下に広がる海を見ながら快調に下った。綺麗な路面に緩いコーナーばかりで、ほぼブレーキを使わずに下れるほど。良い道だった。
去り際に、鳥海山を下からパシャリ。海からあの雲の中のてっぺんまで、自分の力だけで4時間で行けると思うと近い様な不思議な感覚になる。
『ロードバイク × 登山』って凄いし、シートゥーサミットも面白い。
帰路は90kmほど、山間の車が少ない道を選んで悠々と。
この道がまた当たりで、森の中を程よいアップダウンと共に駆け抜けられた。沢が流れていたり滝があったり……心地よい水音を聞きながら、ダンシングでリズムをとってコーナーを抜けていく。そうそう、この感じがいい。
16時過ぎにゴール地点の新庄駅に到着。ここからは輪行で帰宅する。いろいろ詰め込んだライドだったけど、無事に終えることができて良かった。
自転車での総距離は230km/獲得標高2,226m。登山部分も込みで、スタートからゴールまで16時間くらいだったろうか。コースタイム8時間ほどの鳥海山登山も一緒に楽しむ盛りだくさんな1日で、程よい疲労感に包まれ電車に揺られる。
またひとつ、楽しい遊びと可能性を見つけられた。さて次は何をしよう?
おわり