前傾姿勢の強いロードバイクでは、しばしば尿道の圧迫感や痛みが問題になる。その救世主として名高いのが、Specialized(スペシャライズド)のPower(パワー)サドルだ。
今回は、Powerサドルの弟分に当たる「Power ARC Expert」を購入してみたので、インプレ・簡易レビューを書いていきたい。
<目次>
0.購入動機
1.Power ARC Expertのスペック
2.インプレ
3.尿道の痛みはどうか?
4.これからの運用
0.購入動機
最近の僕のメインサドルは、スペシャライズド製のToupe Comp GEL(トゥーペ コンプ ゲル)だった。Toupeはスペシャライズドの完成車ロードバイクによく用いられるサドルで、適度な前傾姿勢をとることを想定したサドルだ。
僕はもっぱらロングライドを楽しんでいるので、そこまで過度な前傾姿勢をとることは少なかった。また、コースや疲労度合いによってサドルの座り位置を変える乗り方をよくするので、座面がフラット寄りなToupeは都合が良かった。
しかし、平坦コースのロングライドでDHバーを多用するようになったり、筋力が付いてきて今までより前傾の強いポジションに変更してきたりと、Toupeの想定する骨盤の角度より寝た状態で走ることが多くなった。
(以下、スペシャライズドオンラインストアのスクリーンショット)
その時、尿道の痛みや違和感が出てくるようになり、より強い前傾姿勢に対応したサドルが欲しくなったのだ。スペシャライズドのPowerサドルは以前から耳にしていたし、同じメーカーの方が選びやすかったので即決定。
Powerサドルには普通の「Power」シリーズと、よりラウンドした形状の「ARC(アーク)」シリーズとがある。どちらにするか悩んだが、お尻の後ろ側だけで体を支える感覚はあまり慣れないと思い、ARCの方にしてみた。
1.Power ARC Expertのスペック
さて、まずはカタログスペックの部分からご紹介。
現在サイズは2種類の展開となっていて、僕が購入したのは143㎜の方。色はブラック。サドル幅は坐骨幅を測ることで決められる。測り方はこちらのサイトを参考にどうぞ。
Toupe Compとの比較。上がToupeで下がPower ARC Expert。
一目で座面の長さの違いが良く分かる。Powerサドルは座面の短い「ショートノーズサドル」で、その差は一目瞭然だ。
斜めから見ると、サドル中央の穴が開いている部分の形状も特徴的にみえる。Power ARC Expertは広く大きくくりぬかれている形で、股へのダメージが少なそうだ。
後から見たときには、ARCシリーズらしくラウンド形状になっている。Powerサドルの場合は、もっと平らな部分が広いらしい。
裏面にはスペシャライズドお得意のSWATマウント用のネジ穴が切ってある。Powerサドルは偽物もそれなりに出回っていて、スペシャライズドのロゴまで入っているものもあるが、それらはこのネジ穴が溝のないただの穴になっているらしい。
とはいえ、SWATマウントを使いたくても専用品が在庫切ればかりで買えず意味がないので、個人的には何とかしてほしいところ…。(笑)
2.インプレ
さて、バイクに取り付けたら早速実走を。
ポジションは、Toupeで前乗りしたときと同じ位置がデフォルトになる様に前寄りに設定。それに合わせてサドル高も2㎜上げた。DHバーを使ったロングライドが目的なので、もちろんDHバーも併用。
はじめウォームアップにブラケットポジションで走っているうちは、「まぁこんなもんか」くらいだった。それが、DHバーを使いだしてから印象が変わってびっくり。
……こ、これは凄い!!
今までのToupeがパイプ椅子だとすると、これは校長先生の椅子くらい違う。(笑)
サドルの中央ラインでお尻を支えつつ、全体的に緩やかにホールドしてくれる感じ。圧力がどこかに集中することなく、それでいてピッタリとお尻を固定してくれている。DHバーを使った前傾姿勢でもペダリングが凄くしやすい。
そして、尿道への圧迫感も相当軽減されている。股の中央ラインでからだを支えている感じなんだけど、不思議と尿道部分に圧迫感はない。なにこれ。(笑)
ネットで読んだインプレ記事でも強調されていたけど、ARCシリーズ特有の座面のラウンド感は確かに感じた。僕はノーマルのPowerサドルを使ったことがないから何とも言えないものの、Toupeに比べてもそれは感じる。なんというか、大きな丸太に跨っている感じと言うか。この感触は好みが分かれる部分らしい。
「丸太に跨っている」というと股の部分が痛くなりそうだけど、先ほども書いた通り圧迫感はない。その不思議な感じが僕は結構気に入った。
腰の中央ラインがピシッと決まる感じで、ペダリングが安定するというか、DHバーを使ったTTポジションでも走りやすい。
アップダウンのある道でも試してみる。登りでは前乗りをすることが多かったけど、もともとその位置にセッティングしてあるので座り位置を変えることなく回していける。
ここで「お尻のピッタリ感」が生きてきてて、サドルの細い先端部に前乗りしていたToupeよりも、お尻が安定してペダリングがしやすかった。トルクをかけて回していってもGood。姿勢を低くしたまま、アップダウンのあるコースをスピーディーに流すならもってこいだと思う。
3.尿道の痛みはどうか?
さて、購入の発端となった尿道の痛みはどうかというと、もう悩む必要がないほど解決した。DHバーを使っていても問題ないし、もちろん普通に頭を低くして走っても問題ない。
今のところPower ARC Expertで走った最長距離は150㎞くらいしかないが、その殆どをDHバーで走り続けても尿道へのダメージはほぼゼロだった。今まではこの距離を連続してDHバーで走ると、少なからず尿道に違和感が残ってしまっていたので本当に幸せ。(笑)
その時は平坦の100㎞TTをしてみたところで、Power ARCの心地よさもあって思い通りの走りが出来た。
この感じだと、尿道の痛みに関しては恐らく丸一日乗っていても大丈夫だと思う。サドル全体としての相性もそれなりに悪くなくて、300㎞を越えてどうなるかは試してみないと自信がないけど、250㎞くらいまでは普通に快適に走れそうだ。
4.これからの運用
と、ここまでPower ARCをべた褒めしてきたが、これでサドル選びが終わったかと言うとそうではない。というのも、Powerサドルには重大な欠点があるのだ。それは『座り位置を前後に変えられない』こと。
冒頭に書いた通り僕はもっぱらロングライドで、時には獲得標高もそれなりになる。長い登り・下りの多いコースなら、やっぱり座り位置を変えて走りたいのだ。それはバイクの重心を変えたいというのもあるし、お尻全体への負担を軽減させる意味でもある。
しかし、Powerサドルはショートノーズのため、あらかじめセッティングした位置からは殆ど座り位置を変えられない。ド平坦コースならPowerサドルがベストだけど、状況によってはそうでないこともありそうだ。
……で、続いて買ってみたのが同じくスペシャライズドの「Romin Evo Expert」。このサドルがどうだったかは、いろいろ試した上で記事にてご紹介予定。お楽しみに。
おわり