僕は1年半前、初めてのMTB『GT:Avalanche』を購入した。
…が、僕はろくにサイクリング仲間もいないぼっちライダー。しかも自分で弄る前提でネット購入したので、ショップとの繋がりも皆無だ。
MTBは「買っても遊び場がない」とか「禁止や暗黙のマナーが多くて楽しめない」なんて言われることが多いけど、実際はどうなのか?MTBを購入して少し時間が経ったので、今回はMTBでの林道・トレイルツーリングについて思うところを書いていきたい。
<目次> 1.林道におけるルールやマナー 2.見つからない遊び場 3.楽しさと後ろめたさ 4.今の僕の楽しみ 5.これからMTBを買う方へ
1.林道のルールやマナー
まずは、林道やトレイルでMTBに乗るうえでのルールやマナーについて触れていきたい。あくまで僕は初心者の部類だが、初心者ながらに意識していることもあるので、そういった視点で書いていく。
このルールやマナーは初心者にはとても厄介な存在で、一度真剣に考え込むと走りに行くことすら億劫になってしまう程だ。というのも、どこにも具体的に明文化された「規範」的なものが存在しない。
法的な側面から語ると、林道は道路、トレイルや登山道は歩道としての道交法や森林法が適用されるらしい。が、それらの違反の定義や責任は「一般道で20㎞/hオーバーだから○○円罰金、○○点減点」みたいな、分かりやすいものではない。違反の立証が困難かつ、多くは民事訴訟の部類になるから判例も少ない。自治体の条例がどうだとか、土地の所有権が誰だとか、過失が誰に何割あるかとか…個々の状況次第だったりする(あくまで素人の解釈だけど…)。
しかも「今自分が立ち入ろうとしている林道・トレイルはどんな道なのか?」という情報は、時間やお金をかけてしっかり調べないと分からない。「立ち入り禁止」や「私有地」の看板やゲートがあれば入らないのは当然だけど、それらが無かったからといって、100%トラブルにならない保証はないのだ。
例えば、林道の管理者は市町村など公団体から、企業などの私的団体、個人まで様々だ。個人的な私有地を除き、林道には「道路」という性格から一般交通の権利が認められる一方、安全性担保や不法投棄・動植物の無断採取といった問題から、管理者によって封鎖されていることも多い。じゃあ「どの範囲が交通が認められる道路か?」とか「管理者の林道所有の意図はなにか?」とか「管理者との紛争解決の手段と見通しは?」とか…ケースバイケースでややこしい問題ばかり。
更に、MTBで立ち入りが可能だと分かっても、ルールが沢山ある(法的拘束力はほぼ無いマナーだが、実質的にはルール)。道路管理者や登山者、ハイカーとの暗黙のルール的なものだ。ざっと挙げると、こんな感じだろうか。
・歩行者優先
→すれ違いや追い抜きは降車してあいさつを
・徹底した安全管理
→遭難対策、保守的な走り、トラブル対処能力
・自然への配慮
→動植物保護、轍による土壌破壊の防止
詳しくは、こちらのサイトが分かりやすくまとめていると思うので是非。これらのルールは自己中心的に考えると面倒な一方、MTBで林道やトレイルライドをする上で非常に有用なことばかりだ。
僕は大学は山岳部だし登山も好きなので、歩いて山を楽しむ方の目線や山の危険もある程度は分かるつもりだ。山の中では、ひとたび行動不能に陥ってしまうと、それが生死に直結する可能性が高い。だからこそ、自分の安全管理を徹底するべきだし、他人に危険を及ぼす行為は厳禁だ。また、自然は人の手が入ると簡単に変化してしまうので、たった一人のMTB乗りが無責任に改変するのは避けるべき。
…とはいえ、だ。いろんな経験を積まないと重要性は見えてこないから、何も知らない初心者からすれば面倒なことに思えてしまう(だから、まずは盲目的にでもルールに従うのが大事だが)。
また、日本の山利用の勢力図的に、MTBがアウェーな現状はあると思う。
僕は自転車が大好きだしMTBにも乗るから、仮に登山中にMTBerと出会っても「楽しそうだな~」くらいにしか思わない。しかし、登山界隈からの目線はそんなに甘くなくて、あたかも自分らが山の所有者であるかのような横暴な批判も出るほどだ。そんな低レベルな批判は無視したいところだけど、登山者が多数決を制している以上、MTBへ悪印象を与えるのはただ自分の首を絞めるだけだ。ひと昔前には、マナーの悪いMTB乗りが問題となって、MTB立ち入り禁止の林道が増えたとも聞く。
2.見つからない遊び場
ここまで書いたことを踏まえると、現実的にMTBの林道・トレイル遊びが出来る場所はかなり限定される。
そもそも日本は道路の舗装率が異常に高いうえ、MTBでも簡単には走れないような急斜面が多いという地理的な不利がある(この不利については、HAOさんの「アメリカ発のグラベルロードは正義なのか?」という記事が分かりやすい)。
そんな環境で、遊べる林道やトレイルを自分一人の力で探すには、それなりの情熱と時間が要る。林道やトレイル探しのコツは、やくもさんがCBNで書いているこの記事がとても参考になるが、それでも実際に自分で探すのは大変だ。
Googleマップの衛星画像や地理院地図、ネットに埋もれた2000年代の読みづらいブログを駆使して「道ならざる道」を探す。更には、日常で目にするモトクロスバイクの移動経路から推測したり、SNSの場所不明な画像から座標を特定したり…。自分でも「何やってるんだろ?」と思うくらいの労力をかけた。(笑)
いざGoogleマップで入口を見ると大抵「立ち入り禁止」だし、調べ抜いたスマホやPCの画面では完璧だと思っても、実際にMTBで訪れたら柵や道の崩壊に落胆することも1度や2度ではない。
だからこそ、僕は『MTBを買うなら、絶対に遊び場に詳しい地元の専門店で買うべき』だと声を大にして言いたい。(笑)
なんだかんだで、各地方にMTBで林道やトレイル遊びをしている人はいる。しかし、前述した通り「ルールを守れない人が山に入ると自分にも不利益が及ぶ」「1つの遊び場を見つけるのが非常に大変」という構造上、本当に有用な遊び場に関する情報は凄く貴重だ。
そして、もし身近にMTBでも遊べる環境があるなら、それは凄く恵まれた場所だから大切にした方がいい。
3.楽しさと後ろめたさ
さて、空き時間にいろいろな林道やトレイルに脚を運んでやっと楽しめる場所を見つけた僕だけど、自分勝手に楽しめるかと言えばそうではない。
当然のことながら、林道やトレイルはMTB専用パークではない。だからこそ、自然に包まれる感覚や冒険感があって楽しい(僕が初めての林道ツーリングについて書いた記事はこちら)。その一方で、前述のルールは付きまとうし、遊ぶ過程で失敗したと思うこともある。
そもそも「ルールが明文化されていない」「権利義務の関係が曖昧」という前提のせいで、変なグレーゾーン感がある。いや、そりゃ細かくひも解いていけば白or黒なんだけど、ケースバイケース過ぎて一般化し断定するのが極めて難しい。正当性も違法性も共に立証が難しい故、感情論にも走りやすく、下手すると後ろ指を指されかねない緊張感があるのだ。
さらに、昨今は新型コロナウイルス関連の問題もある。地元のトレイルに出掛けるぶんには感染リスクは非常に小さいが、事故のリスクは一定存在するので、各々のリスク管理能力が一層問われる。昨年には、トレイルライド中の男性が単独事故で無くなる事例もあった。
下の記事内でご紹介しているが、登山界隈では「救助対象者が新型コロナウイルスに感染している可能性」「十分な救助体制が整えられなくなる可能性」を鑑みてサイクリングの比ではない自粛要請の対象にもなっている。山に入る以上、こういった状況も頭に入れておく必要があるだろう。(安全対策についての記事は、近日公開予定です。)
…僕が細かすぎるのかも知れないけれど、釈然としない部分はある。
4.今の僕の楽しみ
そんな面倒な思考に負けてMTBを手放すかと思いきや、僕はまだMTBを楽しんでいる。
一度は遊ぶのを辞めようかなと思ったりもしたけど、やっぱりMTBは楽しいし、少しずつ問題を解決していけると思っているからだ。
結局は、MTBでの林道・トレイル遊びはローカルなものなので、地元の方への挨拶や他の林道利用者との会話が大事だというのが最近分かってきた。つい恥ずかしいとか面倒くさいとか思ってしまうけど、こちらから1歩踏み込むともどかしさや変なわだかまりが無くなることも多い。
相手の方にもよるけれど、例えば「ここ走っても大丈夫ですか?」とか「またすれ違うかも知れないので、よろしくお願いします」みたいな声掛けが、その後の相手の表情を変えてくれる。また、「ここにはよくいらっしゃるんですか?」と話を進めていくと、その道についての情報を得られたりもする。お互いに山が好きな仲間でもあるので、その部分を見失わずに、歩み寄る姿勢が大事だと思う。
また、MTB乗りよりモトクロッサー(エンジン付きのオフロードバイク乗り)の方が人口が多かったりするので、そういった方々へのアクションも大切だと感じている。MTB乗りと近い立場だからか、モトクロッサーの方々はとても優しい。いつもありがとうございます。
そして何より、やっぱりMTBでの林道・トレイル遊びは楽しいのだ。オンロードにはないバイクコントロールや、登山と自転車を組み合わせた様な複合的な楽しみ…。僕のようなぼっち大好きな人間にとって、快適かつ非日常な空間である。難しいルールやマナーとは別の次元で、これは楽しい遊びだと僕は思う。
蛇足だけど、こんな「登山+自転車」の遊びも試していて、MTBの可能性は更に広いと思っている。
5.これからMTBを買う方へ
ここまで、僕が初心者ながらに感じたMTBでの林道・トレイル遊びについて書いてきた。この記事では難しいルールや厳しい現実にスポットを当てて書いてきたけど、本当はもっと楽しさを語りたいくらいだ。
だけど、ちょっとややこしい現状を理解しないと楽しみ切れないのも事実。新型コロナウイルスが蔓延する現在、より一層里山ライドの立ち位置も微妙でセンシティブだと思う。
ロードバイクから自転車にハマり、MTBも楽しんでいる僕だからこそ、MTBは楽しいと言いたい。その一方で、ロードの比でない面倒があるのも確かだ。MTBでの林道・トレイルツーリングを見据えている(特に僕のようなぼっちな)方は、そういう微妙な立ち位置を理解したうえで、思う存分楽しんで頂けたらと素人ながらに思う。
おわり