寝れない夜は、ロードバイクに乗るのが一番だ。
こんな記事を書いてしまうほど、僕はナイトライドに魅了されている。(眠れない夜を、サドルの上で過ごすということ)
その夜も、全く眠れそうになかった。最近の、授業中のストレスが半端じゃない。もはや生理的に無理、というようなレベルでストレスが溜まっていく。全く、どうしたものか。
ストレス発散のために、ロングライドに出かけることにした。翌日の予定=山岳部の新歓BBQは18時から。帰宅後準備して出かければ、20時間近くは確保できそうだった。睡眠時間を除いても12時間はありそう。つまり、200km+αなら余裕という事だ。
何処に行こうかと考えた結果、お気に入りの伊豆半島に向かうことにした。ちょうど行きたかった場所=稲取細野高原にもいけそう。いい機会じゃないか。
出発時刻は22:00頃。
軽めのルート=単純な箱根大権山ピストンも視野に入れつつ、取り敢えず夜道へと愛車を駆った。国道一号を基調に、西へ西へを愛車のルーベを駆る。
ああ、この感覚だ。自分の力がクランクを通じてタイヤに伝わり、僕を推し進めるこの感じ。たまらない。
程なくして小田原に到着。いつものセブンイレブンで夜食を食べつつ、この先どうするかを考えた。
箱根ヒルクライムを楽しむのもアリだが、それだと日の出まで山頂で待ちぼうけすることになりそうな時刻。それなら、細野高原まで行ってしまおうじゃないか!
補給を済ませた僕は、東伊豆へとバイクを進めた。
東伊豆の135号線は道幅が狭いうえ交通量が多く、車の流れも速いので自転車が走るには控えめに言って最悪な環境だ。ここは安パイの迂回路を活用する。といっても、すべてを迂回できる訳ではない。時折主要道に顔を出したが、この時間02:00は交通量の最も少ない時間だから、135号でも快適に走行できた。
この僕だけの世界、たまらないよね。
人気のない東伊豆の海岸線を、一人淡々と踏んでいく。伊豆半島は本当に山しかない場所で、獲得標高が優しい東伊豆でさえインナーを積極的に使いたい勾配だ。テンポ走を意識しつつ、登りでは適度なペースで、下りでアウタートップで踏む。アップダウンの激しい場所では、これが一番早く目的地に到着できるのだ。
アップダウンが多い道はもちろん疲れるには疲れるんだけど、延々と続く平坦よりも僕は好きだったりする。コースにメリハリがあっていいし、なにより街に向かってダウンヒルするとき、この夜景が見えるからだ。
海岸沿いの灯りが海面に反射して、ゆらゆらと輝く様は本当に綺麗だ。これを見ながらのダウンヒルは痛快そのもの。
熱川温泉を過ぎるころには、辺りは明るくなってきた。天気は曇りで朝焼けを見ることはできなかったが、ぼんやりと東の空が明るくなっていくのもまた綺麗だったりする。
さて、いよいよ今日のメインの細野高原だ!
「稲取南口」という名前の信号を過ぎたセブンイレブンの向かい側辺りに、細野高原への登り口がある。ざっくり距離6.5km、550mUP、平均勾配8%。いい感じの登りだ。
路面状況はお世辞にもいいとは言えない。アスファルトの区間もあるけど、割れたコンクリートや速度を落とすための溝が彫られていたりする。自転車的にはこの溝、本当にやめてほしい。。
途中には、ご丁寧に「細野高原まであと〇km」の看板が散見される。道が間違ってない証拠だからうれしいんだけど、先が長いことを知らせるその看板には正直ご退場願いたい。(笑)
次第に脇の木々が鬱蒼としだして日差しを遮る。
『この道、夜は絶対怖い奴だ』
経験から嫌というほどわかる。いないとは思うけど、よほどのマニアじゃない限りこの道は夜に行かない方がいい。
そして…到着!
いきなり景色が晴れて、高原地帯に入る。遠くには風車が見えたりして、本当にのどかな場所だ。
到着したのは06:00前。時間が早いせいか、人の気配は全くない。曇天なのが残念だけど、僕にはそのくらいの方がちょうどいい。登り切った達成感に、道路に寝そべって目を閉じだ。今にも深い眠りに落ちてしまいそうだ…。
*** *** * *** ***
と、微睡みの中でふと考えた。気づけば時刻は06:30。サイコンを見てなかったから気づかなかったけど、ここは家から約150km地点らしい。思ってたより遠くまで来てしまっていた。あれ?これ、ヤバくね?(笑)
予定に間に合わせるためには16:30までには家に着いていないといけない。つまり残された時間は10時間。
元気な時なら、別になんてことない。だけど、僕は昨日の朝から一睡もしていない。もうすぐ24時間が経とうというところだ。やったことある人ならわかると思うけど、24時間不眠ってのはまずい。運動のパフォーマンスが格段に落ちるのだ。
そう、ここからが地獄の始まりだったのだ…。
ここで僕がバカなのは『距離が同じなら多少辛くても楽しい道を走りたい』と思ってしまう事。大人しく来た道を戻ればいいものを、交通量が多いのは嫌だったから伊豆半島中央の「天城峠=8.5km・600mUP・6.5%」越えルートを選択してしまった。
睡眠不足から、時間が経てば経つほどパフォーマンスが落ちるのは分かっていた。だから、なるべく速く伊豆半島をクリアするべきだ。悪路のダウンヒルをさっさと済ませ、天城峠へと向かった。
思いのほかヒルクライムは快調だった。もちろん眠くて瞼は重いが、インナーローを駆使してじわじわと登っていく。せいぜい600mUPなんだから、ぼーっとしてれば着く。そう思えた心の余裕もあった。
峠を制覇し、伊豆市に向かう。ここからは下り基調。
下りで脚を止めているサイクリストをよく見るが、グロスのペースを意識するなら下りでしっかり踏むのが大事だと思う。今度はアウタートップでガシガシ下る。テクニカルなコーナーは少ないから、余計に踏むか否かが問われるコースだ。
脚力ではなく体力のゲージがとっくに赤ランプなのをひしひしと感じながらも、快調に進めているのに僕は満足だった。このペースなら予定に余裕で間に合う。それが嬉しくてならなかった。
*** *** * *** ***
しかし僕は大事なことを忘れていた。
かれこれ100km全く何も食べておらず、食欲のかけらも感じないことを。
(大丈夫、まだ脚はある。ここはコンビニによって補給しておこう…あれ?俺何も食べたくないぞ?)
いつもなら何かしら食べたいものが頭にすぐ浮かんでくるのだが、このときは違った。しかしカロリー的に考えるととっくにマイナス領域に入っていて、このまま食べずに帰宅するのが不可能なのは明白だ。
(何か…何か食べなきゃ)
とりあえず消化によさそうな高級食品ウイダーを贅沢に大人買いした。そして砂糖の塊系のお菓子も少々。これなら吸収してくれるはず…。
眠気で朦朧とする中で、買ったものをひたすらに胃袋に詰め込む。そう、美味しいかとかじゃなくて、今はとにかくエネルギーを体内に取り込むんだ。
無理矢理ウイダーを飲み込んで、僕はまた走り出した。だが消化器系の感管が、明らかにいつもと違う。
消化に良いはずのウイダーなのに、僕は吐き気を催していた。今までどんなに辛いライドでも呑み込めば勝手に消化してくれていたから、この感覚は初めてだ。もはや、下を向いたら今にも吐きそうなレベル。
まずい、これは本当にまずい。
どんなにいい車でも、ガソリンがなくちゃ走らないように、消化しエネルギーを生み出せなければ脚力がいくら残っていても走れない。それは分かっている。だけど、胃が食料を受け付けていない…。
*** *** * *** ***
押し寄せる吐き気をこらえて何とか三島に到着。時刻は09:30だから、あと7時間ある。時間的には余裕なはずだけど、体はもはや立ってるのも辛い。こうなるんだったら輪行袋を持ってくるんだった。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。仕方ないからあと90km、僕は走るしかないんだ。
箱根を登るのも考えたけど、下りで稼ぐことを考えて熱海峠を選択。
箱根に比べれば楽な登りのはずなんだけど、辛すぎて頂上付近の休憩所に倒れこんだ。かれこれ30時間近く不眠の状態。時間に余裕はあるから、安全のためにも仮眠をすることにした。
30分ほど寝てみたが、正直全く改善している感じがない。まあ全く寝ないよりはマシか…。そう信じて、またバイクにまたがった。
そこからの記憶はあまりないのだが、とにかく苦しかったのだけは覚えている。
エネルギー不足で力が入らないのでコンビニで補給を試みるが、それがまた苦行。吐きそうなのに食べないと時間内に帰れないから、無心になって胃袋に詰め込んでいく。
食べずしてエネルギーを補給できたらいいのに。単純なブドウ糖でいいから、点滴がほしくてたまらなかった。
信号待ちの度、ハンドルに突っ伏して目を閉じ休憩する。近くの車のエンジン音だけ聞いておいて、信号が青になったらまた前を向いて走り出すのを繰り返した。そうでもしないと、走り続けられなかったと思う。
最後の丘も越えて、小田原を通過。
走りなれた道という事もあると思うけど、ここからは本当に道の記憶がない。あるのは苦痛と吐き気に耐えながらも、不思議と脚だけは勝手にクランクを回しているのが可笑しくて、笑いながら走っていた記憶くらいだ。
Twitterによれば、16:55に自宅に帰還。普段ならゆっくりでも4時間の道を、6時間かけて走っていたことになる。
意識朦朧のままシャワーを浴び、何とか予定にも間にあった。
上級生は皆おいしい酒を飲みに来ているのだが、僕はそれどころではなかった。というか、一人だけ開始前からかなり酔っているかのごとくテンションが可笑しかったのだが、終了まで寝ずに役目を果たしたので許してほしい。(笑)
後日ルートラボでコースを見ると300km、3,600mUPだったようだ。大したコースじゃなかったはずなのに、僕の自転車生活史上、最も辛いライドになってしまった。
帰宅後不眠でロングライドに出かけるとろくなことにならないので、余程のドMな方でない限り辞めておいた方がいいです。
以上、自戒の意も込めた備忘録でした。
おわり
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