ディスクブレーキのローターは、見逃されがちな軽量化ポイントだろう。薄く見た目には華奢なローターでも、その実製品ごとに重量差がある。
今回ご紹介するのは、KCNCが発売する超軽量なディスクローター「ローター レーザー」。1枚2,000円台というお手軽価格ながら、世界でも最軽量級のローターだ。実測重量からオンロードにおける使用感まで、僕なりにまとめていきたい。
<目次> 1.スペック 1-1.他のローターとの重量比較 2.各部詳細 3.使用感 3-1.軽量化の効果は? 3-2.マイルドな立ち上がり 3-3.独特なフィーリング 3-4.耐久性・曲がり耐性は問題なし 4.まとめ
1.スペック
では、まずはKCNCのレーザーのスペックから。
・サイズ:140/160/180/203mm ・固定方法:6穴ボルト ・公称重量:62/74/95/123g(140/160/180/203mm) ・実測重量:75g(160mm) ・価格:2,860円(税込み) ・商品ページはこちら
特筆すべきは、その軽量性と低価格。
140mmでは世界最軽量(ライトウェイさん調べ)を誇りつつも、1枚2,000円台という価格も両立している。軽量パーツは軒並み高価で手が出しにくいのが世の常だが、KCNCの企業努力に脱帽だ。
1-1.他のローターと重量比較
バイクの軽量化というと、ホイールに始まりハンドル周りからコンポ等、大きなパーツに目が行きがちだ。
しかし、ディスクブレーキのバイクの場合、ディスクローターの重量も無視できない。完成車付属のものでは、相場は160mmで120~130g程度。(シマノのローター比較はこちらの記事にまとめている)
KCNCのローターは、実測重量で75g。びっくりするくらい軽い。
手元に届いた2枚を計測したところ、両方とも75gだった。メーカーサイトでの公称は74g(ローター印字は73gだけど)で、概ね公称通りだろうか。
今まで使っていたSRAMのローターは、限界まで使って105gだった。
東京大阪キャノンボール研究さんの記事から推測すると、だいたい15g前後は削れて軽くなっていそう。そう考えると新品で120gくらいだろうから、片側で45gくらいは軽量化できたことになる。
シマノのローター重量の比較はこちらの記事にまとめているけど、主な160mmローターの重量は以下の通りだ。
<センターロック>
・Dura-Ace:118g(SM-RT900)
・Ultegra:128g(SM-RT800)
・105:133g(SM-RT70)
・XTR:108g(RT-MT900)
・Deore-XT:109g(RT-MT800)
<6ボルト>
・Deore-XT:135g(SM-RT86)
KCNCのローター「レーザー」なら、6ボルトで75g(160mm実測)、センターロックで使用してもKCNCの軽量アダプター(27g)を追加して102g。
センターロックの場合、ロックリングが10g程度あるので、Dura-Aceと比較しても片輪26gほど軽量化できる計算となる。
ちなみにKCNCのアダプターは、素材が7075アルミで27g、6061アルミだと29g。ほかのアダプタよりは高価だけど、ローター交換の際は再利用できるから経済的。
シマノの軽量ローターは1枚7,000円~なのを考えると、2,000円台で購入できてしまうKCNCのローターレーザーは凄い。
2.各部詳細
それでは各部を詳しく見ていこう。
パッケージは紙でかっこいい。
中身はローター本体と固定用ボルトが6本(T25)。
ちなみにこのボルトは、6本で13gだった。
軽量化のため、大幅に肉ぬきした形状になっている。
サイドは面取りされ、何かを塗ってあるような感じ。
落車時などの怪我防止だろうか?メンテナンスの際持ちやすいと感じた。
ホイールへの取り付けは問題なく完了。6本のボルトを、T25のレンチで固定すればOKだ。刻印によれば回転方向もあるらしく、刻印面を外側にして取り付けるらしい。
交換の際は、「対角締めをする」ことと、「パッドの位置を戻しておく」ことをお忘れなく。
3.使用感
では、実際に使用しての感想を。
今回ローターを使用したバイクは『Bombtrack:Hook EXT』というグラベルロードで、ホイールは『Alexrims:RXD2』。バイクはクロモリで重量級だけど、ホイールは1,400g台の軽量ホイールだ。コンポはSRAMのRIVAL1で油圧式、パッドはSwiss Stopのものを使用している。
基本的にはロードバイクでの舗装路使用を前提とした話をしつつ、グラベルで少し使ってみた感想も交えていきたい。
3-1.軽量化の効果は?
今回のローター交換で、前後合わせて60gの軽量化が出来た。
「じゃあ、その効果は体感できたの?」というと、実のところ僕の感覚ではよくわからなかった。バイク自体が重いせいか、あるいはグラベル用のセッティングのせいか、これと言って軽量になった実感はない。
他の使用者さんの意見では、「ロードバイクならダンシングの振りで軽くなったのが分かるけど、シクロクロスだと分からなかった」とのこと。使うバイクによっても、変化を体感できるかどうかには差がありそうだ。
足回りの軽量化は影響が大きいはずだけど、ホイールの回転軸に近いパーツであるためか、ローターの重量変化は体感しにくいらしい。
ともあれ確実に軽量化できているはずで、ヒルクライムレース等では大きなメリットとなる。もし僕がヒルクライムレースに出るなら、迷わず使用するだろう。
3-2.マイルドな立ち上がり
大きく肉抜きされた本体形状からは、ブレーキ性能にいささか不安を覚えてしまう。僕も果たしてどんなブレーキフィールだろうかと、おっかなびっくりで使用を開始した。
まず言えるのは、パッドがローターに当たり始める「立ち上がり」は、かなりマイルドになったということ。
シマノ・スラム・カンパのローターを使ってきたけど、それらと比較して効き始めの制動力は控えめだ。悪く言えば効きが弱いし、良く言えばコントローラブルでリムブレーキのような遊びがある。
いずれにせよ、オンロード走行に必要な制動力は発揮しているし、実用にあたって問題はないと思う。
ブレーキのかけ方には慣れが必要そうで、好みも分かれるところだろう。
使えないとは思わないけど、ブレーキの効きは全体的に低下するから、それを勘案して使わないといけない。
例えて言うなら、ディスクorリムブレーキで峠でのブレーキの使い方が異なるように、今までのローターとKCNCのローターでも扱いが異なる…そんなイメージだろうか。
軽くグラベルでも使ってみた感じだと、個人的にはリアは問題なく、フロントはもっとガツンと効いてほしいと思った。オフロードで使用するなら特に、その人のブレーキの使い方や好み次第で「合う / 合わない」がありそうだな…という印象だ。
3-3.独特なフィーリング
立ち上がりに限定せず、ブレーキ時には独特なフィーリングがあるのも印象的だった。ちょっと誇張した言い方をすると、肉抜きの柱部分の感触が伝わり、制動力が細かく変化するような感覚に陥ったのだ。
シマノやスラムのローターが「ギューッ」と滑らかで一定の効きなのに対し、KCNCのローター レーザーは「ギュギュギュ……」と細かくて断続的な感じがする。
これも何か具体的に問題になるものではないけど、少なくとも慣れは必要だと思う。パッドがローターを捉える感触は強くなったものの、下りも集中して走りたいときには心もとなく感じてしまう。
ブレーキのかけ方によっては細かな振動がハンドルに伝わるのも、気になる部分ではあった。
3-4.耐久性・曲がり耐性は問題なし?
見た目からは耐久性や曲がり耐性も不安になるけれど、今のところ特に問題は感じていない。
「今のところ」と書いたのは、残念ながら東北では本格的な峠が開通するのは4~5月なため、まだ1,000mクラスのダウンヒルが出来る場所がないためである。現状では荒れ気味の200m程度の舗装林道でしか試せていない。また、走行距離も数百kmというレベルだ。
それでもある程度キツめにブレーキングしているし、例えばシマノのUltegraグレードのローターでは曲がりが発生したポイントでも、このKCNCのローターでは特に問題なしだった(使用バイクが異なるので、一概に比較は出来ないけど)。
音鳴りもローターの濡れ・汚れによるもの以外は発生しておらず、現状の使用環境では問題なさそうだ。
4.まとめ
以上、KCNCの超軽量ディスクローター「レーザー」をレビューしてみた。
シマノのDura-AceやXTRを上回る軽量性でありながら、1枚2,860円という破格さも魅力的。手軽にバイクの軽量化を考えている方には、有力な1手であろう。
制動力やブレーキフィールが変わるので、使うシチュエーションは選びそうな印象。
個人的には、富士ヒル等のヒルクライムレースには良さそうだし、もし僕が出るなら迷わず使うと思う。一方で、以前やったグラベルエベレスティングやいつものバイクパッキングでは、違うローターにするだろう。
ブレーキ性能より軽量化を優先させたい場面で、活躍してくれそうなパーツだ。
万能な機材ではないと思うけど、軽量化に興味のある方なら試す価値のあるパーツだと思う。この記事が、皆様の参考になれば幸いだ。
おわり