今や完全に主流となった「ディスクブレーキのロードバイク」。従来までのリムブレーキのロードバイクとは、必要になるメンテナンスも工具も異なるため、抵抗や不安を感じる方も多いと思う。
僕は4年くらいシマノの油圧ディスクロードに乗っていて、一通りのメンテナンスはショップにもお願いし、かつ自分でもやってみた。そこで感じたメンテナンスごと難易度や必要な工具、感想などを書いていきたい。
<目次> 0.はじめに 1.クリーニング 2.油圧ディスクのメンテと難易度・工具 3.おすすめの運用
0.はじめに
本題の前に、少しお断りを。メンテナンスをやっているとはいえ僕は素人なので、技術や知識に未熟な部分はあるだろうし、この記事の内容も完璧とは言えないだろう。
また、ショップさんによっては、油圧ディスクの作業スキルや経験がまだ蓄積されていないところもあるかも知れない(最近では少なくなってきたとは思うけど、僕は実際にそういうことがあった)。油圧ディスクは規格や作業手順が細々と変わっているし、シマノの公式マニュアルすらしれっと改定される。

そんな状況ではあるものの、「素人が自分なりにメンテナンスをしながら乗ってきた知識・感想」というのも1つの参考になるかなと、記事に書いてみた次第だ。
僕が所有したことがあるのは「シマノの油圧ディスクブレーキ」のみなので、この記事ではそれに絞って、かつブレーキ関連のメンテナンスのみを書いていきたい。
1.クリーニング
まずはメンテナンスの基本「クリーニング」から。ディスクブレーキでも、リムブレーキと同じくブレーキダストでキャリパー周辺が黒く汚れてくるし、雨ライドの後は細かい砂などを噛んだりする。

クリーニングに関しては特に難しいこともなく、リムブレーキのロードバイクと基本は同じ。注意点は1つ、『ブレーキパーツに油分を付けないこと』。それさえ気を付ければOKだし、逆に油分を付けてしまうとブレーキが効かなくなり、ローターとパッドの交換が必要になってしまう。
ここでいう『油分』が結構シビアで、例えば手に含まれる皮脂や、パーツクリーナーに含まれる微量の油分も良くなかったりする。スプレータイプのチェーンルブの飛び散りなんてもってのほかだ。

(上:付着した油分を飛ばすのに炙る方法もあるけど、僕はダメだった)
僕はバイクの汚れ自体には割と無頓着(ロングライドばかりでどうせ走行中は汚れてるから、正常に動作すればいいという考え)なので、基本的にはパーツクリーナーを含ませたウェスでブレーキ周辺(パッドとローター以外)を拭くだけ。1,000㎞くらい走ったらホイールとパッドを外して、キャリパー内も綺麗にする。

パッドを外した状態であってもパーツクリーナーを直接吹きかけるのはピストン周りのゴムやオイルラインのパッキンに良くないので、専用品のクリーナーを使うか表面のみの拭き掃除がいい。
とはいえ、いろいろ弄ってきた感じだと「ちょっとでも素手で触ったら一貫の終わり」みたいなものじゃなく、「常識的な範囲で油分に気を付ける」くらいで大丈夫。ちょっとブレーキが鳴いてしまうことがあっても、制動力に問題がないなら峠を1本下れば直る。

いずれにせよ重要なのは、①外を走る前に前後のブレーキタッチを確認してちゃんとブレーキが利くのを確かめること、②プロが作業した正常な状態を覚えておいて、異変を感じたら調べたり相談したりすること、だと思う。
2.油圧ディスクのメンテと難易度・工具
続いては、クリーニング以外の「メンテナンスの種類」と、それぞれの「難易度」「必要工具」について書いていきたい。なお、メンテナンスの頻度はあくまで目安で使用状況によって大きく変わるし、難易度は体感的なものだ。
2-1.パッド交換

・頻度:3,000~5,000㎞(厚み0.5㎜まで) ・必要工具:ドライバーorペンチ/ピストン戻し ・難易度:易
恐らく油圧ディスクロードを購入して、最初に必要になるのがこのパッド交換。パッドの種類やブレーキングの仕方でかなり頻度は変わるものの、頻度もそれなりに高いし、自分で出来るようになっておくといいんじゃないかな?と思う。
因みに、パッドの減りの状態はクリーニングの時に見ればすぐわかる。山岳コースのロングライドを走ると意外と早くすり減ったりもするので、パッド切れなんてことにならない様にロングライドの前には余裕を持って交換するのがおススメだ。


必要工具はブレーキの型番やバイクによって変わるけど、①パッドの留めピンを外す(マイナスドライバーorラジオペンチ)、②クリーニングする(クリーナー、タオル)、③ピストンを戻す(ピストン戻しツールor代用品)、④パッドを交換、⑤パッドのピンを戻す、という具合に作業する。
専用工具らしいものは「ピストン戻しツール」だけど、タイヤレバーやアーレンキー等で代用可能で、作業の難易度自体もさして高くはないと思う。ピストンを戻すときは、ピストンを壊さないように注意しながらゆっくり作業するのがポイント。(ローターとパッドが無い状態でブレーキレバーを握りピストンが出すぎて閉じてしまった時は、ピストン戻しツールがあった方がいいと思う。また、無理な力を加えてピストンを壊さない様に注意。)


それよりも、ブレーキキャリパーの位置調整が必要になったとき用の調整工具(上のリンク右)の方が有用なはず。パッド交換ではキャリパーの位置調整は必要ないことも多いけど、ローターとパッドの隙間は1㎜くらい?しかないので、微調整したいとき調整がシビアすぎて四苦八苦する。ピストンを出し過ぎるよりも使う場面は多いんじゃないだろうか。
2-2.ローター交換

・頻度:10,000~15,000㎞(厚み1.5㎜まで。多分パッド交換3回くらい) ・必要工具:ロックリング用工具(センターロック)or T25レンチ(6ボルト) ・難易度:易
それなりに距離を乗っていくと、ホイールについているディスクローターの交換が必要になる。ディスクローターの固定方式は2種類あって、シマノの「センターロック」と汎用的?な「6ボルト」。
センターロックの場合は、ロックリングの種類によって必要な工具が変わる。「内セレーション」の場合はスプロケ交換で使うロックリング外し工具と同じもの(TL-LR15&モンキーレンチ)が使える。「外セレーション」の場合はDura-AceのホローテックⅡBBに適合するBB用工具(TL-FC36)が使える。
工具はさして高価ではないし、作業自体はかなり簡単な部類。



6ボルトの場合はトルクスレンチ(星形のレンチ。ヘックスローブともいう)のT25を使ってボルトを固定。こちらもネジの対角締めが出来ればOKだし、工具は専用品ではなく汎用工具なのでハードルが低いだろうか。

いずれにせよ、ローター交換自体はそんなに難しいものではない。
問題になるとすれば、『ローターの交換時期』の判断だろう。そんなにすぐすり減るものではないけど、じわじわとローターは消耗していく。シマノによれば「厚みが1.5㎜で交換」らしいが、それなりに精密なノギスがないと分からないと思う。

2-3.エア抜き・オイル交換

・頻度:1年~2年おき ・必要工具:ブリーディングキット、オイル、+αいろいろ ・難易度:難
油圧ディスクロード特有の作業と言えば、やはりこのオイル関連だろう。頻度は1~2年おきとは書いたけど、乗り方によってかなり異なってくる部分だと思う。かなり早い人で1年弱、あまり乗らない人で2年くらいだろうか。僕のバイクだと、BBやヘッドバーツの交換と合わせてオイル交換をしてきている。
専用工具類もそれなりに必要。全部合わせて7,000円位にはなるだろうか。基本はブリーディングキットとスペーサー、オイルがあればOK…なんだけど、バイクによっては追加でいろいろ必要になることもある。



例えば最近のSTI(R9100系以降?)はじょうごにアダプターが必要だし、作業の都合上バットや手袋などもあった方がいい。また、エア抜きが結構大変で、エアを移動させるのに振動が有効なのを利用してバイブローターを使うという奥の手もあったりする。(笑)

ここまででもうご想像はつくと思うが、「専用工具が多い」「扱いなれない道具」「作業の実態が見えない」となれば、それなりに難しいメンテナンスになる。
作業時間は数時間は見ておいた方がいいし、オイルをこぼしたり思うようにエアが抜けなかったり、挙句には専用品のはずのホースが抜けてオイルが部屋に飛び散ったり…。最初は特に苦戦した(僕がへたくそなだけかもしれないけど)。
難易度と頻度を考えたら、ショップ任せが無難なのは間違いないだろう。

ともあれ、僕は自分でやったりもしているし、どうしようもなく手が付けられないものではないとも思う。マニュアルを読んで、構造を考えて、「過不足ない量のオイルを、エアを噛ませずブレーキシステム内に満たす」というゴールまでたどり着ければOK。
落ち着いて時間をかけて、ホースをゆすったり傾けたり軽くたたいたりしながら、エアを抜き切れば大丈夫。エア抜きは全部抜き切ったと思ってもまだ入っていることもあって、ショップでメンテした後もフィーリングが微妙だったから弄るとまだエアが入っていたこともあった。やるやら余裕を持って、寛大な心でじっくりと。。


2-4.ローター修正

・頻度:まず必要ない? ・必要工具:ローター修正工具 ・難易度:普通?
約4年/3万㎞くらいはディスクロードに乗っていて、峠もそれなりに走ってきたし輪行も数十回はしたけど、まだ1度もローターが歪んだことはないので、実際そんなに必要なのか?と僕的には疑問なメンテナンス。MTBでは曲がる話を聞くけど、ロードでそんなに曲がるんだろうか?
ともあれ、過度なブレーキングをしたり何らかの事故があったりすると必要になるらしい。作業自体はいたって単純、ツールを使ってローターの曲がりをぐいっと修正するだけ。下手に弄るとローターを壊しかねないし、スポークが邪魔して作業しにくい場所だから少し高くても専用工具がいいだろう。(ローターの消耗具合によっては、1枚3,000~6,000円くらいだからローター自体を交換してしまうのがいいんじゃ…と思うけど。)


3.おすすめの運用方法
ここまで油圧ディスクロードのメンテについて、素人ながらにチャレンジした諸々を書いてきた。最後に、油圧ディスクロードの運用方法として、僕的なおススメを書いておきたい。
もちろんショップさんとの付き合い方や、年間の走行距離に大きく依存するけど、金銭的な部分や時間コストも考慮して考えてみた。例えば『10,000㎞/年くらい走る』なら、
<1万㎞/年ペース> ①クリーニング(ライド毎)⇒自分 ②パッド交換(3~5,000㎞毎)⇒自分 ③ローター交換(10,000㎞毎)⇒自分 ④オイル交換(1~2年毎)⇒バイク全体の点検・OHと同時にショップ ④’エア抜き(ブレーキタッチが悪いとき)⇒ショップ
がいいと思う。オイル関連は触らないのがおススメで、出先でトラブルになる気配すら感じたことがないし、仮にトラブルになっても設備がないとどうしようもないから、自分で出来るようになっておくメリットがほぼ無いからだ。
もし『年間5,000㎞乗るかどうか』くらいなら、
<5,000㎞/年ペース> ①クリーニング(ライド毎)⇒自分 ②~④全て(1年に1度)⇒ショップでフル点検・必要に応じて交換
がいいだろう。多分パッドが一番早く消耗するから、クリーニングでパッドが残り少ないと思ったらショップに持って行って診てもらうくらいでちょうどいいと思う。
もちろんどのパターンも、もっと高頻度でショップに通えるならその方が安心だ。だけど引っ越したり、関係がうまくいかなかったりと、ずっとショップに通い続けられる訳でもなく、新しいお店を探すのもまた一苦労。だから、あまりショップに頼り過ぎない例を挙げている。

ただ、一つ声を大にして言いたいのは「ディスクロードの最初の1台は実店舗で購入する」こと。
なぜなら、「正解」が分からないと作業のしようがないから。ネット通販だと適当な作業で販売されることもあるし、仮に何か間違っていた際にも再チェック・修正してもらうことすら出来ない。
まずはショップで購入し、使っていくうちに自分のバイクのパーツの摩耗スピードを覚えたり、作業をしてもらったりして、運用の仕方を覚えるところからだ。その上で、自分でやろうと思うならきちんと調べ、覚えた「正解」を出せるまで妥協なく作業しなくてはならない。

油圧ディスクロードが面倒か?と言われると、そんなことはない。僕は今までトラブルらしいトラブルは一度もないし、そのブレーキング性能は本当に素晴らしいと思う。僕の体感で、街乗りのリムブレーキよりよっぽどメンテフリーだ。
とはいえ、馴染みのない規格や仕組みが多く、専門性が増してしまったのも事実。個人でメンテナンスをするのも可能ではあるけど、ある程度で割り切ってショップ任せにしてしまうのがいいのではないだろうか。
おわり

