Zwiftには、パワーメーターやスマートトレーナーを使用しなくとも、走行時のパワーを推計してくれる機能がある。高価な機材投資をしなくても、パワートレーニングやオンラインサイクリングを楽しめるため、Zwiftのありがたい機能の一つだ。
しかし、Zwift公式サイトに「サポートトレーナー」として紹介されているローラー台でも、400W程度の低いパワーで制限がかかってしまうことは、あまり知られていない問題だ。Zwift公式サイトにもこの事実は明記されていないうえ、あいまいなところも多い。
現に僕のZwift環境では最大パワーの制限がかかっており、この問題は事前に知ることが出来なかった。先日Twitterでフォロワーさんから有力な情報を頂いたので、それをもとに最大パワーの制限について現状分かっていることをまとめておきたい。暫定的な情報も多いため、新たなことが分かり次第追記、修正していく予定だ。
<目次> 0.はじめに結論を 1.実は使えないzPower 2.最大パワーの制限 3.多くのローラーに制限あり? 4.最後に
0.はじめに結論を
この先ちょっとややこしい話を書いていくので、話が迷子にならないよう、初めに結論をまとめておきたい。この記事で言いたいことは、
・Zwiftの対応デバイス表で「zPower」にチェックが入っていないクラシックトレーナーは、400W(あるいは380W)の制限を受ける可能性が高い。
・ほとんどのクラシックトレーナーが「zPower」に未チェックのため、ローラー選びの際は要注意。
ということだ。なぜそういう結論に至ったのか、この先書いていきたい。
1.実は使えない「zPower」
まず、この記事で題材にしている『Zwiftの使用環境』と『zPower』について。状況と言葉の定義を明確にしておきたい。特に『zPower』というZwift用語が面倒くさい。
①使用環境
Zwiftの使用環境は『パワーメーターやスマートトレーナーを使わず、一般的なスピードセンサーのみをZwiftに接続し、Zwift内でパワーを推計するもの』を想定している。使用するローラー台も、パワー計測機や送信機能を持たない純粋な固定ローラー台。こういったローラー台を、スマート・トーナー等と区別するため、Zwiftでは『クラシック・トレーナー(classic trainers)』と呼ぶ。
例えば「タイヤドライブ式のローラー台を使用し、Ant+のスピード&ケイデンスセンサーをバイクに取り付け、Ant+のUSBドングルをPCに接続しZwift上にデータを送る」という様な形だ。
今の僕の使用環境もまさしくそれにあたり、使用しているローラー台はミノウラのLR760(何ら測定・送信機能を持たない固定ローラー)、パワーメーターなし。
②zPowerについて
Zwiftがクラシックトレーナーについて書いてるこの記事には、
データを送信しないホイールオンタイプのトレーナー (「クラシックトレーナー」とも呼ばれる) をお使いの場合、ゲーム内の出力パワーはパワーカーブの推定値であるzPowerとして算出されます。zPowerに関する詳細については、こちらのZpowerをご覧ください。 |
と記載され、zPowerについて書いているこの記事には、
zPowerは、スピードセンサーまたはパワーメーターからデータを取得してZwift内で仮想的にワットを計算したものです。 |
との記載がある。
回りくどい書き方だが、要はZwiftが『**のクラシックトレーナーで**㎞/hの走行をしているなら、**W出てるはず。』という推計をしている訳だ。バイクに取り付けられたスピードセンサーのデータをもとに、ライダーの出力を逆算し、Zwift上のアバターに反映させている。
で、ここで注意が必要な(というか、原文にミスリードがある)のが、『すべてのクラシックトレーナーがzPowerを利用できるわけではない』ということだ。
③zPowerは限定的?
先ほどの引用部分からは「Zwiftで推計されたパワー=zPower」「すべてのクラシックトレーナーはzPowerが使われる」と読めるが、実はそうではない。Zwiftのパワー推計の仕組みや推計されるパワーの種類については、Zwift Insiderというコミュニティサイトのこちらの記事に詳しく書いてある。この記事によると、クラシック・トレーナーを用いた場合、Zwiftの推計パワーには3種類あるらしい。
⑴zPower-推計パワーの中で最も正確。急な加速にも対応する。最大1200W。
⑵virtual Powerー急な加速には対応しないが、ある程度正確に測定可能。最大1200W。
⑶Unsupportedーサポート外のクラシックトレーナー利用時。最大400W。
そして、Zwiftの対応デバイスページ(先ほどリンクを張った「Zwiftがクラシックトレーナーについて書いてるこの記事」とは別ページ)には、『対応トレーナー』が各社ごとに記載されている。スクリーンショットだとこんな感じ。
クラシックトレーナーだと、チェックの枠は「zPower」と「Estimated Power(直訳:推定されたパワー)」の2つだ。先ほどのZwift Insiderの記事の真偽はともかく、この部分からも『zPowerを利用できるクラシックトレーナーと利用できないクラシックトレーナーがある』というのは分かる。僕の使っているミノウラLR760は「zPower」に非対応で、「Estimated Power」に対応している訳だ。
さらに、ZwiftとZwift Insiderの説明を見る限り、Zwiftの対応デバイスページのチェック欄と実際に使用される推計パワーの種類の対応関係は、
・「zPower」= ⑴zPower
・「Estimated Power」= ⑵Virtual Power
・「対応表にないクラシックトレーナー」= ⑶Unsupported
という対応になっているように思える。
例えば、僕の使っているローラー台「ミノウラLR760」は、四角で囲ったとおり「zPower」は非対応で「Estimated Power」に対応している。ここまでの流れの通り解釈すれば、『ミノウラLR760は ⑵ virtual Powerにあたり、加速時の推定パワーは正確でないものの、最大1200Wの環境で推定パワーを使用できる』となるだろう。
しかし、実際には『Zwiftの対応デバイスページに記載があるミノウラ LR760は ⑶Unsupportedと同じく、400W(実際は更に低い380W)の制限を受ける』のだ。
2.最大パワーの400w制限
この最大パワーが400Wで制限されてしまう問題については、こちらの記事に詳しくまとめているので、詳細はリンク先からお読みいただきたいが、要するに『どんなにスプリントでもがき、実際は800Wや1000W出ていようが、Zwift上では400Wまでしか出ない』という事だ。
この制限には更に20W低い380W制限もあるらしく、僕は380Wの方。だから、どんなにもがいても下の画像のように380Wで頭打ちになってしまう。
日本語のサイトで同様の報告をしている記事は見つけられなかったが、Twitterでフォロワーさんから頂いた情報の1つに、このパワー制限の症状を報告しているものがあった。
こちらの投稿は僕と同じ症状を報告していて、細部のパワー推移までピッタリ合致する。『But when I try and drop the hammer and go flat out the watts peak at about 380 (my FTP is 335) and then drop off to about 350 as I go harder. 』のあたりはまさにそうだ。
この投稿者は『TACX Blue Motion dumb trainer』を使っていると書いている(dumbはスラング)。「TACX Blue motion」も、Zwiftの対応デバイスページにおいては「zPower」は非対応で「Estimated Power」に対応している。
僕の事例とこの投稿者の事例を組み合わせて考えると、『Zwiftの対応デバイスページで「zPower」は非対応で「Estimated Power」に対応している場合、Unsupportedと同様の400Wの最大パワー制限を受けてしまう』という仮説が成り立つ。
・「zPower」= ⑴zPower
・「Estimated Power」= 実質的な ⑶Unsupported ?
・「対応表にないクラシックトレーナー」= ⑶Unsupported
3.多くのローラーが制限あり?
この最大パワーの制限についてはあまり情報がないので、具体的にどのクラシックトレーナーに制限がついているのか?は断言はできない。
が、先ほどの仮定『Zwiftの公式サポートトレーナー表で「zPower」は非対応で「Estimated Power」に対応している場合、Unsupportedと同様の400Wの最大パワー制限を受けてしまう』が正しかった場合、かなり多くのクラシックトレーナーが制限を受けるという事になる。
Zwiftのサイトに名前が載っているクラシックトレーナー96種のうち、zPowerにチェックがついていないのは88種だった。実に92%。
これからZwiftを始めようという方にとって、使用するローラーがZwiftに対応しているかはとても重要な選択基準になるはずだ。もしクラシックトレーナーも選択肢に入っているなら、このサポート表を見て購入を決めるかも知れない。
しかし、ここまで書いてきたように、サポート表に書いてあったとしてもzPowerの欄にチェックが入っていなければ、400Wか380Wの制限を受ける可能性が高いと思う。サポート表にクラシックトレーナーの名前があるからといって、存分にZwiftを楽しめるとは限らないのだ。少なくともミノウラLR760とTACX Blue motionは380Wで制限を受けている。
あくまで個人的な意見だが、この点において、Zwiftは少々不親切と言わざるを得ない。
4.最後に
実際に400W以上を長時間維持することが出来るサイクリストは少ないし、僕も到底無理だ(というか、出来たらプロを目指すかも(笑))。だから、僕個人的にはそこまで困ってもいない。
しかし、ダッシュ系メニューを含むワークアウトや、今流行りのミートアップには重大な支障をきたしてしまう。1200Wを出す人はそういなくとも、400Wくらいであれば、瞬間的に出すことは多くのサイクリストが出来るはず。
記事執筆現在、僕が見た限りZwiftは公式ページにこのことを記載していないし、声を大にして言う人もいないので、今回記事にしてみた。400Wや380Wの制限を受けるローラーの種類は定かではないし、今後アップデート等で変更される可能性も十分にあるが、これからローラーを買う・Zwiftを始める方は注意していただきたい。
少々投資額が大きくなってしまうものの、パワーメーターやスマートトレーナーを購入するのが最もストレスなくZwiftを楽しむことが出来るのは間違いない。
おわり