冬の北海道ライドは楽しみもたくさんあるが、同時に危険も多い。その筆頭はやはり交通事故で、凍結路に視界不良と事故の起こりやすい環境なのは間違いない。
この記事では、僕が北海道ライドをして感じ/考え/実践した安全のための工夫を道路利用の観点からまとめていきたい。ただし、僕は北海道に住んだことの無いアウェーな人間だ。だから、土地勘のない道外民目線の意見として捉えていただければと思う。
<目次> 1.考えられる危険 2.危険への対処 3.実際に走ってみて感じたこと 4.基本を押さえて臨機応変な判断を
1.考えられる危険
まずは考えられる危険を列挙していく。何事もまずはリスクの把握から。
①路面環境
「雪道」と一括りに言っても、その実態は様々だ。例えば降り積もったばかりの新雪や、車に押し固められた圧雪、ツルツルに凍ったアイスバーン、溶けかけたシャーベット…。僕がこれらの中で一番怖くて嫌いなのが『シャーベット』だ。
シャーベット状の路面ではスパイクタイヤは意味を成さないし、ハンドルを取られてまっすぐ走ることすら難しくなる。危険すぎて、車道の(いや、車道以外でも)走行はやってられない。
路面がシャーベットになる状況は、基本的に気温が高い日に路面の雪が解けてきたとき。真冬の北海道では気温が0℃以上になることは稀だけど、近年は温暖化で暖かい日が多いし、春先や秋口は路面が融雪するのはよくあることな筈だ。
また、融雪材によってもシャーベットと同じような状況になったりもする。融雪剤は雪を解かすためのものなので、撒かれると中途半端に溶けてボロボロになった雪がアスファルトや圧雪の上に載った状態になるのだ。シャーベットほどではないものの、タイヤがとられて走行がし辛いし、変な轍に嵌まると危険。
次に危険なのが『凍った轍』。
真っ平に凍ってくれれば、スパイクタイヤの自転車にとっては非常に快適・安全に走れる路面になる。しかし、融雪剤で溶けた雪が深い轍を作り、そのまま凍ってしまった時には非常に危険な路面となる。
具体的に何が危ないかというと、⑴轍の左側は凸凹がひどく走行が危険、⑵轍の中を走行することになり走行ラインが車と完全に被る、⑶後続車に道を譲ったり路面の穴を避けたりするために、左に寄ると轍の壁にタイヤが嵌まってバランスを崩す、という点。
特に⑶が厄介で、夏道で車道と歩道の間の小さい段差にタイヤが引っかかってガガっとなるやつが発生する。知らず知らずのうちに轍が深くなっていたりして、後続車のため良かれと思って左に寄ったら轍に引っかかってかえって危険…という事態が発生しかねない(現実に僕がそうなった)
②道路特性
路面状態が問題なくとも、道路の特性によって危険になってしまう場面もある。例えば『トンネル』や『ブラインドコーナー』、『中央分離帯』などだ。トンネルやブラインドコーナーが危険なのは夏も同じだが、ドライバーの頭に自転車の存在がないという点により夏よりも圧倒的に危険となる。
あくまで僕の主観的な感想だが、北海道のドライバーさんは自転車に優しい方が多い。抜くときは1.5~2mは空間を確保してくれるし、交差点では自転車を優先してくれる。しかし一方で、平均的に走行スピードがかなり速いと思う。夏場は快適に走れて有難いが、自転車がいないと思っている冬場には、これらの特徴が裏目に出てナチュラルに轢かれかねないと思う。逃げ場の少ないトンネルや見通しの悪いブラインドコーナーでは、車の通るラインにいると危ないという意識を強く持つべきだろう。
また、中央分離帯も夏以上に危険。冬場は路側帯に除雪された雪が集まるので、道幅が左右から制限されて凄く狭くなる。夏なら①を安全に走れるが、冬場は自転車も含め車両が通れるのは②のみ。
ドライバーの方も対向車線に出ることができないので、その狭い空間で追い抜きを完了してもらう必要がある。更に、仮に自分が落車したら車も逃げ場がないので轢かれる可能性が高い。
③視界不良
冬の北海道の危険として、良く言われるのが『地吹雪』。実際に強い風が吹くと、周囲の雪が舞って一時的に視界が全くなくなる。雪山のホワイトアウトと同じだ。
降雪や地形、風向きなど、いろいろな要素が加わって起こるものなので、サイクリング中まる1日どうしようもないという事は稀だと思う。ただし、その一部区間は常に視界が悪いという事も多く、どうしてもその区間を抜けるのが難しいという事は十分考えられる。リカバリーの効かないルートだとひどい目を見る。
④交通量が読めない
単純に考えると、交通量が多ければ多いほど事故の危険は増す。これはサイクリング基本だが、北海道に住んだことの無い人間にはその交通量がなかなか読めないから厄介だ。道民の方からすれば「え!?あそこ通るの??」という様な道でも、土地勘がない僕らは逆に「え、そんなに危ないんですか?」となる。
自転車の場合、特にキャンプ装備を積んだ重い自転車は完全な新雪を走るのは難しいので、ある程度の交通量があった方が走りやすいというパラドックスもある。また、完全な山奥に行ってしまうと、次に紹介する「何かあったとき」にリカバリーが効かなくなるし、助けも呼べないリスクがある。ちょうどいい道を探すのは切実な問題だ。
⑤走行不能時のビバーク
僕は基本すべてテント泊で走ったのでさほど危険を感じることはなかったが、もし道中で走行不能になったら助けが来るまでの間ビバークしなくてはならない。旅館など宿に泊まる前提で走っている場合、1晩越えるための装備を持っていないと最悪低体温症になってしまう。
夜間は気温が下がるし、けがをしていれば体温も奪われる。旅館まで走ればいいやと補給を持たず汗をたくさんかいていれば、エネルギー不足で体が熱を作れなくなるし尋常じゃない汗冷えが起こるだろう。想像したくもないが本当に最悪だ。
仲間がいればまだ助けを呼んでもらえるが、ソロの場合はそれもないので更に危険。
⑥低温による自分のリスク
もちろん単純に気温が低いことによる危険もある。手、足、顔は特に凍傷やしもやけのリスクの高い場所だ。凍傷まで行かずとも痛みや痒みの長引く寒冷障害もあり、そこまで重症だという実感のないまま症状が進行してしまったりもする。
交通事故と違ってそれが直接的に即死につながることは考えにくいが、今後の人生に響く可能性もあるので十分に注意しなくてはならない。寒冷障害とその応急処置などについては、このサイトが参考になる。
また、寒さで体が知らず知らずのうちに硬直し、とっさの時に思うように体が動かない可能性もある。意識的に体の状態がどうなっているかを考えるのが肝要。
2.危険への対処
続いては上記の危険に対応するために出来ること、僕が実践したことなどについて。
①天候を正確に把握
悪い路面状況や視界不良を避けるために、まず大事なのが天候をなるべく正確に把握すること。晴れ/雪か等だけでなく、風向きや路面状況なども併せてみておく必要がある。
基本は各種天気予報をチェックすることだが、どのサイトの情報を信じるかが問題だ。僕ははじめ、一般的に使われている?気象庁の天気予報やヤフー天気を見ていた。しかし、晴れの予報だったのに吹雪になって酷い目に遭ったことがある。
そんなときにTwitterのフォロワーさんに教えていただいたのが「SCW-天気予報」というサイト。教えていただいてからはこのサイトを中心にチェックしていたが、雲の動きや風の予報などかなり精度の高いものだった。また、任意の地点をチェックできるので、「○○峠の天気を見たい」とか「○○道路は風向きがどっちだろうか?」といったツーリング計画に必要な情報がピンポイントで得られる。
町単位の大雑把な予測よりも圧倒的に使い勝手がいいので、こちらも併せて使ってみることをお勧めする。
そして、地吹雪など視界不良対策としての風向きのチェックについて。冬季北海道ライド中、空は晴れているのに一部区間が風で舞った雪で視界不良になるのを何度か経験した。これは、道路の風上にパウダースノーがたまりやすい標高の高い山があるかどうかで概ね判断がつくと思う。峠の山頂側から強風が吹くときは吹きおろしに粉雪が混じって視界が悪くなるし、その逆ならそれほど視界への影響はない。
すべての場面で確実にそうとは言えないが、少し頭に入れておくといいかも知れない。
路面環境については、峠のライブカメラや自治体の除雪計画マップが役に立つ。
ライブカメラなら概ねの路面の様子は把握できるし、除雪計画マップは自転車が快適に走れる時間帯を知ることができる。各自治体ごとにググればすぐに出てくるので、是非参考にされたし。
②道路の特性を調べる
危険個所として挙げたトンネルやブラインドコーナー、中央分離帯の有無はGoogleマップの航空写真を見れば大体把握できる。気になる場所はストリートビューを使えばより詳しく状況を確認するのもいい。
例えば↑の写真でいうと、真ん中~右側の部分に中央分離帯がある。また、左側には橋があり全体を通して道幅が狭い。少し面倒だけど、2つのルートで迷ったときなんかはこうやって峠の区間だけでもチェックしておくとリアルな走りやすさが分かる。峠というと斜度や獲得標高ばかりに目が行きがちだけど、冬の北海道を走るならそういう数字じゃない道路環境の方がよっぽど重要だ。
③交通量を観察
土地勘のない道外民にとっては、交通量をあらかじめ押さえておくのは難しい。身近に土地勘のある人がいればいろいろ話を聞いておくのがいいと思うけど、そうもいかないときには応急策として峠の分岐などで車の台数を観察するのも手だ。
なんだか原始的な方法に思えるけど、これが意外と使える。補給食でも食べながら5分くらい峠の入口を観察して、大型車の割合や車の台数を数える。あくまで僕がやってみてだけど、5分で5台くらいなら道路環境が良くなくてもそれほど問題ないし、5分で20~30台になるとかなり危険。
あらかじめ複数のルートを候補に入れておかないとこの方法はあまり意味を持たないけど、出先でも簡単に予測がつくのでお試しあれ。ロングツーリングならいくつかのルートを引いておいて、最終的には峠の天気と交通量を見て決める、とかもアリだと思う。
また、どうしても交通量の多い区間を通過したいときは、早朝/深夜など時間をずらして走るのも手。逆に車が飛ばして危ないという可能性もあるけれど、台数が少なければトラックの音がしたら100%路肩に避難しても必要十分なペースでストレスなく走行出来たりする。
④後続車へのアピールと対応
安全のためには「自転車なんている訳ない」と思っているドライバーに「自転車がいる」と発見してもらう必要がある。そのために、反射材とライト両方のアピールをしていくべきだ。
天気のいい夜間は反射材が有効で、低温下でバッテリーの消耗が激しいライトに頼らなくても良くなる。また、北海道は街灯の無い道も多く、常にハイビームで走行している車も多かった。ハイビームならその分遠くからでも発見してもらえるので、反射材の有効性が高まるはずだ。
↑この写真で、ドライバックの赤テープとフレーム・ホイールの黄色テープはすべて反射材だ。なるべく目立つように車体右側にメインに貼り付けた。また、自分自身も常に反射ベストを着て、途中からはオデコさん(TwitterID:@fatbikenjoy)から頂いたおにぎりリフレクターもつけている。自分で確認したらこれも目立つのでお勧めだ。
右側に黄色いドライバックを使っているのも視認性のためで、右後ろから見ると結構目立つ。雪道では目立つ色が本州と若干違っていて、雪の多い場所/天候の時は明るい色よりも暗くて濃い色の方が目立つと思った。
雪景色の中で白っぽいカラーリングは凄く見づらいので、ビビットないろいろなカラーを使うのがいいかも知れない。
一方、風雪が多い時には反射材はあまり役に立たない。自分でライトを当てて確認したけど、特に日中は雪に反射して辺りが明るく、反射素材があまり目立たなかった。また、そもそも、そこそこの視界不良時もライトを付けていないドライバーが多い。だから反射材よりも、明るいリアライトをたくさんつけた方が良い。
僕はランタイムとバッテリーの入手性を考えてキャットアイのOmni3/5をメインに使いつつ、風雪時の対策としてセロハンを巻いてリア用に改造したキャットアイのVolt400XCを追加した。セロハンの分ノーマルより明るさは落ちるが、400ルーメンの点滅を出来るリアライトはかなり明るい。バッテリーが減ると明るさが落ちるのに注意だが、使い分けを前提にこういう使い方もアリだと思う。
後続車への対応は『安全なラインを走る&停車し譲る』に尽きると思う。
先に「凍った轍が危険」でも書いた通り、抜きやすいようにと安易に路肩に寄るのは逆に危ない。自分が落車してしまっては元も子もないので、あくまで自分が安全に走れるラインを外さないように。そうすると道によっては追い抜いてもらうのが困難な状況も発生するので、そいういうときは十分減速or路肩に停車する。特に峠の登りなどでは、こちらのスピードも遅いのでさっさと停車してしまうのが最善策だろう。
もちろん、時には歩道の走行を選択するべきだ。トンネルもブラインドコーナーが多いなら路肩の部分を押し歩きが無難。
⑤抜かりの無い装備で挑む
最後に、これは言わずもがなだけど抜かりの無い装備で挑むこと。きちんと想定を明確にして、どんな状況なら自分が耐えられるのかや、最悪どんな環境を生きなくてはならないのかを考えて臨むのがいい。
僕が実際に使用した装備やウエアはこちらの記事にまとめているので、ぜひ一例として参考に。↓
詳しくは別記事にもするが、手先/指先の凍傷対策として「常に動かしておく」というのがある。ダウンヒルなどの寒い場面で、じっと縮こまるのではなく意識的に指先などを動かし続けて熱を作るのだ。そうしなくても良い装備で走るのがベストだけど、寒いと感じてしまった場合は仕方ないので、応急処置的に本格的に冷たくなる前にやっておくといい。
3.実際に走ってみて
上記の対策を実践した上で、走ってみてどうだったか?というのを簡単に。
①ルート選択が難しい
僕が一番苦戦したのはルート選択。特にどの峠を越えるかで悩み失敗した。
冬季北海道4日目のこと、まだYahoo天気しか見ていない時に、晴れの予報だったところ雪&風という全く異なる天候になった。視界が良い前提でルートを考えていたので、風雪となるとまた話は変わってくる。簡単に言うと長い峠と短い峠、どちらを通るか悩んだ。
短い方が交通量が多く危険と言われていたが、入口観察ではそれほど違いは無し。峠を越えれば天候が回復する様だったので、視界不良区間を早く抜けるべく僕は短い方を選択した。短い方はトンネルも多い事が分かっていたが、むしろトンネルは風雪にさらされず歩けるので好都合と思った。天候が回復するまではそもそも自転車に乗れない=路肩を歩くくらいの気持ちでいたのだ。
結果的に言うとこれは正解とは言えない判断で、峠の危険さに心が折れそうになった。トンネル帯は歩きで難なく通過したが、問題はその先。視界が悪く車道に出ればいつ轢かれるかも分からない様な環境で、狭い路肩を数km押し歩きした。
因みにその峠はR274の日勝峠。あそこは例え晴れていても、冬に自転車で行くのはやめた方がいい。ただ単に危ない。
もう一方のルートがどんな環境だったかは分からないので、二者択一ではあれがベターだった可能性はある。しかし、それならば諦めて輪行してしまった方が良かったと思う。
②ドライバーとの意思疎通を大切に
これは雪道に限った話ではないが、自転車の側からドライバーの方となるべくコミュニケーションをとることが重要だと思う。例えば今は路面状態が悪くて寄れないから抜くのは待って欲しいとか、対向車が来ていないのが見えるから抜けるよ、とか。
もちろんそれは自分勝手に主張をするんじゃなくて、自転車側にしか分からない危険や状況を加味して、全体としてどちらが良いか判断をつけて伝えるということだ。
また、ごめんね/ありがとう/お先にどうぞのハンドサインは、積極的に使っていくべきだと思う。ただでさえ異端者への視線を浴びかねないので、こちらからアクションを起こした方がまだマシだ。ハザードで返してくれるドライバーも多いので、こちらとしてもいい気分になれてWin-Win。
③除雪車は避けよう
北海道外に住んでいたらまず分からないのが「除雪車を避ける」というもの。普通は車が背後から接近してきた場合、左側に寄って道を開ける。しかし、除雪車は雪を左側にかき集める仕組みなので、自転車が左端に寄っていては危ない。
そこで、背後から除雪車が来た際には対向車線へ避けて追い抜いてもらう必要がある。考えてみれば当然なのだが、咄嗟になるとあれ?となってしまうので頭の片隅に入れて頂くといいと思う。
当たり前だが、反対車線に出るときは対向車には十分に注意。除雪車もちゃんと待っていてくれるので、ブラインドコーナー等で反対車線に出るのは避けよう。
4.臨機応変な判断を
ここまで、素人目ではあるが出来る安全対策を書いてきた。
そのうえで、記事の最後に『常に自分で考え安全を優先しよう』という事を強調しておきたい。ここまで書いてきた工夫や考え方は僕の限られたライドで得られたものに過ぎないし、過酷な状況ほど臨機応変な対応が求められるからだ。
まとめとして方法を書くのは簡単だけど、現実には毎度微妙な判断が付きまとう。その悩みを放棄して適当に走ってしまうのは違うと思う一方で、考え過ぎて嫌になってしまうのも本末転倒だ。特に道外民からするとやってみなきゃ分からないことだらけなので、判断も「本気の遊び」の一環として、楽しみながらアップデートしていければいいのではないかと思う。この記事が誰かの楽しみに貢献出来たら幸いだ。
おわり