言わずと知れた日本最高峰:富士山。夏には登山者であふれかえるようだが、実は冬にも登れることを知る人は少ないように思う。事実、冬の富士山は完全な冬山。生半可な装備で行っていい場所じゃない。しかしその分、冬には素晴らしい景色が見られる。
その富士山に海抜0mの横浜から登山口まで自転車でアプローチし、山頂を目指すことにした。
昨日の登山口までのライドは、予想以上に脚を削る結果となった。そして天気予報も強風のため登山に適さない予報…。僕の挑戦やいかに。
<目次> 1.コース概要 2.冬山装備をバイクパッキング 3.【自転車】横浜~御殿場口 4.【登山】御殿場口~山頂 5.下山・帰宅 6.まとめ *長くなりすぎたので、1、2、3は前の記事でご紹介します!
4.【登山】御殿場口~山頂
富士登山には複数のルートが存在するが、今回登る「御殿場ルート」が最も標高差があり長いルート。別にだから選んだという訳でもなく、普通に横浜からのアクセスがいいから、なのだが。笑
標高差は約2,300m。富士山は単独峰なので、ただひたすらに登るだけの簡単ルートだ。通常12月なら五合目くらいからは雪があったりするようだが、今年は非常に雪が少なく7合目くらいまでは雪がないので残念だ。
翌朝03:15起床。
ポットに入れておいたお湯を飲み、身体を温める。ペットボトルの水はシャーベット気味だが完全には凍っていないから、気温は氷点下だがまだ暖かい。
朝ご飯を口に押し込みながら、今日のルート・天候を確認。富士山は難しいポイントもなければ道迷いもしにくいが、その分天候には要注意だ。特に風が厄介で、遮蔽物がないため暴風が容赦なく吹き付ける。
今日の天気予報は相変わらず『ランクC:登山には適さない』、その理由も強風だ。標高3,000mで25~30m/sと、半端じゃない風速の予報が出ている。風は標高が高くなるほど強くなるから、山頂の3,700m付近ではどうなることやら…。
危険を感じたら即撤退と心に決め、行動開始。
04:07 標高1,450m 登山開始
実は同日、僕の所属する山岳部が冬季訓練のため富士山に訪れていて、ここから先は同期のAと2人で登る。残りの後輩たちは登頂は目指さないので出発は僕らより遅いが、位置づけとしては僕らは先発隊。適当な場所へのBC設営と酒類の荷揚げも任務のうちである。ビールケースやら何やらザックへ放り込んだおかげで、背中に程よい重量感がある。
夜明けは06:30頃なので、まだまだ真っ暗。Aと2人で淡々と登る。
昨日あれだけ痛めつけた脚だ、調子が出るまで時間がかかる。案の定、両脚は錘を付けているように重たいが、焦らずじっくりと身体を温めることだけ意識する。大丈夫、いずれ錘は消えてなくなる。
05:53 標高2,350m。
辺りが明るくなり、だんだんと朝日が顔を出してきた。目の前には依然として真っ黒な砂山が延々と続いているが、振り返るとその眺めに心打たれる。何度見ても雲海は美しい。
Garminによれば意外と良いペースで登っており、450m/h前後で標高を上げている。なかなかに上出来だ。
06:37 標高2,590m。
五合目小屋に到着。既に道程の約半分の標高を登ったが、ここから風が強くなり難易度が増していく。
予報と比較すると弱く感じるが、時折15m/sくらいの強風が吹き荒れる。今年は非常に雪が少なく、まだまだ火山岩の砂漠が広がる。突風のたび、その小石や砂塵が僕らを襲う。
08:01 標高3,031m。
七合目小屋に到着。ここにBCを設営し、宿泊装備をデポする。
さすがに風がかなり強くなってきているため、テントが飛ばされないように細心の注意が必要だ。小屋や岩を風よけに利用しながら、落石の心配も考慮する。
08:41 設営・休憩のち出発。
ここまで雪はなく、この先やっとアイゼンの出番がきた。早く雪の上を歩きたかったので、待ちわびた瞬間だ。氷にアイゼンの刃を突き刺しながら歩くあの感覚が好きだ。
10:26 標高3,400m。
流石に風が強くなってきて、時折立っているのがやっとの風が吹く。姿勢を下げてピッケルを使いつつ、耐風姿勢をしっかりとりやり過ごす。風が自分に到達する一瞬前にその轟音が聞こえるので、その音を頼りに風に備えた。
岩陰で風よけが出来ていたので、いったん休憩し補給。標高が高いせいか、脚力に余裕はあっても心拍数が異様に高い。暖かいと感じているが気温は-10℃近く。バリバリに凍ったスニッカーズをかみしめ山頂までのエネルギーとする。
辺りは完全に氷の世界。
大粒の氷の結晶が岩肌を覆い、強い日差しをうけ美しい反射をしている。その結晶をバリバリと踏みしめ、一歩ずつ山頂へ進む。風は一層強くなり、斜度もキツくなっていった。
体力と脚力はまだ大丈夫。僕らを吹き飛ばそうという勢いの風に注意し、アイゼンとピッケルでの安全確保を忘れない。
とっくに日本標高2位の北岳は超えているので、日本で今自分より高い場所は歩みを進めるその先しかない。頂上ももう少しのところまで見えてきた。ふと振り返ると現れる、遥か下に広がる雲を見るとその実感がわく。
12:39 登頂
そしてついに、その頂が現れた。
ははは、これは最高だ。笑
低温のためすぐにスマホのバッテリーが切れてしまったが、その間に数枚の写真を撮ることはできた。
気が付けば、いつも頭上にある雲は足元の遥か下。高い場所はそれだけで心地よい。
『横浜からこの山頂まで、自分の脚力だけで来たのだ。』その自己陶酔がこの景色を一層美しくする。同じものを見ていても、そこに至る背景で感じることは人それぞれ。今僕が見ている景色は、僕だけのもの。うん、素晴らしい眺めじゃないか。
お鉢を適当に散策し、BCへ下山。日暮れも早く16:30にはもう真っ暗だから、ダラダラもしていられないのだ。
下山とて気は抜けない、というかむしろ下山の方が怖い。あの暴風域を、今度は下らなくてはならないのだ(下りの方が滑落しやすいのは有名な話)。研いできたアイゼンとピッケルを信じ、硬い氷に体重を乗せ刃を突き刺す。そうしないと、風で吹っ飛ぶ。
一度、本当にヤバい風に遭遇した。姿勢を低くしていたにも拘らず、身体が斜面から引きはがされそうになった。たまらず斜面に飛び込み、滑落停止の体勢でピックを雪面に突き刺す。と、同時にアイゼンの前爪を氷に蹴り込み身体を固定。何とか風をやり過ごし、事なきを得た。
”本当のアイスバーン”になったときには、アイゼンやピッケルの刃も通らない。もしそうだったら、滑落は免れないのだろう。当然、きちんと刃が通る雪質だったから登った訳で、そんな”もしも”は起こらないのだが。
14:20 BC帰着。
訓練をしていた後輩とも合流し、談笑の後に夕食をとった。普段は部員全員で大鍋だが、今回は僕だけ別に食料を持ってきた。なんというか、自転車で自走で来るからには、食料についても自己完結したかったのだ。そして、来る冬季北海道ツーリングへの最終チェックでもある。
お腹が空いていたので、α米4袋にカレーやお菓子も食べてしまった。少々食べ過ぎだが、食料にはかなり余裕があるのでいいだろう。
満腹になると、強烈な睡魔が僕を襲った。後輩らと語らおうと思っていたのに、知らぬ間に僕はシュラフに包まり眠りについていた。
5.下山・帰宅
夜中に、強風で何度も目が覚めた。早く寝てしまったせいもあり、なかなか寝付けない。
思い切って夜風に当たりにいって、夜景を見るなどして過ごした。
シュラフの中でモゾモゾ寝返りを打ちながら、微睡みの中で日の出を迎えた。気温は氷点下ではあるものの、(たぶん-10℃にもなっていない)暖かく快適な朝だ。
翌朝はもう下山するのみなので、のんびりと起きて準備する。お湯を沸かし、コーヒーを飲んで出発までの時間つぶし。やれやれ、後輩らはまだまだ準備が遅い。
08:30 下山開始
昨日の風はやや収まり、山歩きはしやすくなったがその代わりにガスが出てしまった。時折吹雪き、気温も低い。
帰りは完全にガスのなか。ルート(というよりは方角)を見失わないように注意しながら、みんなで下山する。下りはガスがなければ綺麗な景色を見ながら降りられるんだけど、こうなると苦行のようだ。
帰りのライドに備え、ウォーミングアップも兼ねている。脚の状態を確認するが、疲労は残るものの下りの多い100㎞なら十分に走れそう。よかったよかった。
10:50 ライド開始
あの邪魔なザックには本当に嫌気がさしていたので、帰りは後輩たちの車にザックを預けて走った。北海道ツーリングのために、ザック無しの時の100㎞越えも経験しておきたかった、というのもあったり。
やはりザックが無いと非常に楽で、5時間少々で横浜へ帰宅。
早く帰って風呂に入りたい一心で走っていたら、意外と早くついてしまった。笑
6.まとめ
今回の山行も全員が無事に帰ってくることが出来て良かった。
冬山に自転車でアプローチする』というのは、夏にこんなこと(【ロードバイク×登山】自走120kmで丹沢山に日帰り登山してみた)をしてから芽生えた『思い付きだったが、こうして終わってみるといい思い出が出来たかなと思う。
自転車と登山という2つの趣味を一度に楽しめる、非常に贅沢なツーリングだった。笑
ただし大型ザックを背負ってのライドは非常に苦しかったので、もし次回があるとすればその問題を解決してからかなぁ。
次はいよいよ冬季北海道ツーリング。今回なんかより、確実にそっちの方が厳しいだろう。どんな世界がまっているのか…楽しみだ!
自転車+登山については、こちらの記事にいろいろまとめています。気になった方はどうぞ!↓
おわり