ツーリング記

走れなくなった愛車と乾杯…。天空の四国カルストを目指すー四国ライド③

峠で死にかけ、泊めていただいた家を後にした。

時刻は既に昼を過ぎている。予定はくるってしまったけれど、僕はひとまず高知を目指した。距離にして150kmくらいだから、たぶん着くのは夜になる。

偶然通りがかった方の家に泊めて頂いた話は、前記事(限界集落の暮らしのリアル。一晩を共にして僕が見てきたものー四国ライド②)へ。

<目次>
・剣山から大歩危小歩危
・愛車と乾杯
・高知の朝市
・四国カルストへ!

***  *** * *** ***

途中予備チューブも買っておきたいから、そのまま高知付近で一泊。翌日このツーリングのメインディッシュ、四国カルストに向かおう。

そんなざっくりな計画で、出発。

昨日とは打って変わっていい天気だ。森にこだまするセミの鳴き声がうるさい。

路面はどんどん乾いていき、蒸発した水分が靄となって辺りに立ち込めていた。修理したチューブも何とか大丈夫そうだ。タイヤも軽いサイドカットをしていたけれど、それも走行には問題なさそう。よかったよかった。

 

高知までは予定していた国道(酷道)439号ではなく、美馬市や三好市を通る国道32号を選択。装備に不安があるから町を通っておいた方が安心だし、このルートなら鉄道と並走する区間が長いから、最悪輪行できる。

三好市を過ぎると、大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)に差し掛かる。

道路のすぐ傍を断崖絶壁の川が流れていて、ちょっとした観光地になっているみたい。川下りをしている場所なんかがあって、ちょっと興味をひかれた。

こういう場所にくると、旅行に来ている家族が目に入る。キャーキャーと楽しそうな子供、乗り気なお父さんに、子供を注意しているお母さん…。一人で走っている僕と、何か対照的なものを感じざる負えない。

寂しくないと言えば、きっとそれは嘘になる。じゃあ僕はなんで、好き好んでこうして一人で走っているのだろう?

そんなことを考えながら、つり橋の上から愛車を眺めたりした。

さあ、こうしても居られない。時計の針は進み、だんだんと暗くなってきた。

ナイトライドは好きだが、この国道32号線、道が狭く曲がりくねっているうえ交通量が多い。それもそうだ、町と町をつなぐ道はここくらいしかないのだから。反射ベストを付けていても、こういうドライバーの頭に「自転車の存在」がない道は怖い。特に夜は極力避けたい。

高知まではあと65km。さっさと走ってしまおう。

 

***  *** * *** ***

 

高知まで30㎞くらいになったところで、辺りはすっかり暗くなった。

ラストスパートをかけて高知で夕食を食べようというところで、何やら後輪に違和感が…。降りなくても分かる。このもっさりした感じは、空気圧が低いからだ。

何かを踏んだ訳ではないので、たぶんスローパンク。だましだましでも、チューブが売っている店のある高知市街まで持ってくれればいい。携帯ポンプで空気を入れて走ってみたが、1キロも走らないうちにタイヤがぺったんこになった。あゝ、なんてこった。

最悪これを30回繰り返せばいいと思い、再度空気を入れる。しかし、今度はタイヤの中で音を立てて空気が漏れているようだ。しかも、前輪の空気の減りも異常に早い。これでは走れない。

流石におかしいと思いチューブを取り出すと、今朝張り付けたパッチから空気が漏れているようだった。2本とも120㎞を越えたあたりで剥がれてきた。僕のやり方が悪いのか?それともこんなもんなのか?

真相は分からないけど、ゴムのり式のパンク修理キットが(右)あれば、こんな時にも補強して修復できる。これ以来僕は、パッチ系の修理道具(左)は使っていない。

 

もうチューブもパッチもない。

こんなことってあるんだな。昨日に続いて2日連続で走行不能に陥るなんて、逆に運がいいんじゃないか?そんなことを思ったりもした。だが不幸中の幸い、鉄道沿いのルートを選択したおかげで、輪行で高知までエスケープできる。

Googleマップで駅を調べると、最寄り駅は「角茂谷駅」だった。とりあえず、そこまで歩く。

 

時刻はまだ20:00にもなっていなかったから、駅に着いたらすぐ輪行の準備を使用と思っていた。しかし、駅についてビックリ。なんと19:09に終電が終わっていたのだ!おいおいマジかよ…。

幸いにもこの駅は無人駅で、野宿するにはちょうどいい感じの場所だった。始発までここで一泊させていただくことに。

(野宿スタイルのライドについてはこの記事にまとめているので、気になる方はどうぞ。)

田舎でしか見ない、酒の自販機があった。

体力回復の妨げになるから普段ライド中は飲まないけど、今日くらいはいいだろう。災難続きで進まないが、今日もよく頑張ったさ。真っ暗な無人駅の片隅で一人、愛車と乾杯。

持っている食料はおにぎり一個だけ。これで明日の始発(06:30)まで我慢はしんどいが、酒が幾分気を紛らわしてくれる。朝まではたっぷり時間があった。

冷え込む夜。

シュラフカバーと輪行袋に包まりながら、月明りにぼんやりと照らされる愛車を肴に、空のワンカップが並んでいった。

 

*** *** * *** ***

 

翌朝。

輪行の準備を済ませ、始発に乗り込んだ。予想通り、利用者はかなり少ない。それもそうだ、恐らく利用者は、僕がここまで走ってきた道路沿いに住み、かつ車を使わない人だけ。

終電が異様に早いのも納得だ。というかむしろ、この地域に電車を走らせるメリットはおそらく運営側にはない。

スイッチバックやトンネルを経て山間部を抜けると、いくらか街らくしなってきた。昨日まであの山々の中にいたのかと思うと、灌漑深いものがある。

ここで乗ってからずっと抱えていた違和感の正体にやっと気づいたのだが、この電車、電線がない。(正確には、こういうエンジンで動いているやつは「気動車」というらしい。)加速の度にするエンジン音や振動が、何だか新鮮だった。こんな乗り物もあったんだなぁ。

高知駅に到着。

とりあえず自転車屋でチューブを買わなくては走れないので、開店まで高知の街並みを散歩した。何やらメインストリートで朝市が開催されていて、それを見て回るもの面白かった。店の人曰く、毎週日曜の朝には、こうして道路を封鎖して朝市が出るのだという。

朝食は有名な「ひろめ市場」にて。

高知と言えばカツオだから、やっぱりカツオが食べたかった。市場内でもカツオのたたきや丼ぶりの類が売られていたけど、どうにもそれでは面白くない。

 

何かないかな~とぶらぶらしていると…あった!生のカツオ1柵を、その場で炙ってたたきにしてくれるらしい。

こういうのって嬉しくなっちゃうよね(笑) カツオのたたき丸かじりだ!!

普通はお土産用とか、切り分けてもらって家族で食べたりするみたい。

「お持ち帰りですか?」

「いえ、食べていきます。」

「結構量ありますけど…切り分けます??」

「かじりたいので、そのままでお願いします!」

屋台のお姉さんに笑われた(笑)

たたきには、タレではなく塩を付けて食べる。

ひとかじりして…うーん美味い!

このカツオの風味、濃い味、炙った香ばしい香り…。最高だ。お姉さんの言っていた通り結構な量があったけど、おなかを空かせているから何てことない。他にもウツボやマンボウなんかも頂いた。マンボウは微妙だったけど、ウツボは予想以上に美味しかった。

 

腹ごしらえを済ませ、開店と同時に自転車屋へ。チューブと修理キットを買い込んで、いよいよ四国カルストへ出発だ!

 

*** *** * *** ***

 

四国カルストへは、ここ高知市から海岸沿いを走り、須崎から山中に入りヒルクライムをする。

本当は四万十から北上しヒルクライムの予定だったけど、かなり予定が押してしまったからショートカット。このルートだと、四国カルストまでは90㎞くらい。実は明日の夕方から、松山である人と会う約束があった。それには間に合わせなきゃいけない。

四国カルストは日本でも有数のカルスト地形で、日本とは思えない景色が広がっている。標高1400~1200mの紛れもない絶景ポイントだ。以前つむりさんのブログで拝見してから、行きたくてたまらなかった。

僕が通った道はたぶんマイナーなコースで、車1台分程度しかない道も多かった。

補給ポイントが少ないのが難点だけど、マイナーな道の方が走りやすくていい。斜度が結構キツいけど、荷物が少ないからダンシングもしやすく苦ではない。特にサドルバックが固定されていて、小さめだから幾分が登りが楽だ。

こういう工夫が項を奏しているのが実感できると、それだけで嬉しくなれる。

 

標高ほぼ0mから登っているから、約1400m登り切らなくてはならない。上り坂は好きじゃない僕だけど、少しでも登りを楽しむコツは頑張りすぎない事だと思う。あくまで理想論だけど、登りで脚を使い切るんじゃなく、登りで脚を休められるようにする。すると、無限に走れる感覚が湧いてきて、楽しくなる。笑

 

いつか、山頂に着くはずだ。じわじわと標高を上げていく。

そして、抜けた。

グネグネした森の中を飛び出して、いきなりこんな景色が晴れる。

その瞬間は、たまらなく気持ちがいい。ここまでの道程が、思い起こされる。

稜線上に出ると、少しガスが出ていた。

しかし、遠くの山々を見渡せないほどではない。その靄が織りなす空気感が、一層その美しさを引き立てていた。

柵の先にはたくさんの牛が放し飼いになっている

人間慣れしているのか、全く僕に動じない。知らず知らずに動物に話しかけている僕だけど、無視されるとちょっと悲しかったり。笑

こっちに来る様子が全くないから、愛車とパシャリ。

はあ…美しい。。

森ばかりの日本からは想像が出来ない景色が、そこにはあった。四国ライドのを読んでくださった方なら知っていることだが、ここまでいろいろあった。長かったなぁ…。

この景色を見るために、ここまで走ってきた。車で来ている観光客は多いけど、自分の脚で走ってきたのは僕だけだ。僕にしか分からないこの、心地よさがある。

この僕か今見ている景色は、僕にしか見られない。

遠くの山々の、稜線が美しいと思う。

靄に霞んだ低山の中腹と、青白く、くっきりと縁どられた空との境目…。実は数年前まで、山なんて微塵も興味がなかった。これがいいと思うようになったのは、いつのことだろう?

標高が高いと風も強い。風というか、巨大な空気の塊の移動にぶち当たる感じ、とでもいおうか。

これを感じながら、自転車に乗るのは最高だ。

この四国カルスト、乗鞍やビーナスライン、しまなみ海道もいいけれど、自転車乗りなら一度は走ってほしい道だ。アクセスの悪さが難点かも知れないけど、松山からなら普通のロングライド感覚で行ける距離でもある。

 

*** *** * *** ***

 

本当ならここのキャンプ場で一泊したかったんだけど、あいにくキャンプ装備は持ってきていないし、この標高で寝られる防寒もない。今夜は明日に備えて松山のネットカフェ泊まろう。シャワーも浴びておかなきゃいけないし。

松山に向かって、快適ダウンヒル。

最高の景色を見られた日は、それを思い出すだけで1日ニヤニヤ出来るから僕はちょろい。(笑) 四国カルスト、今度はテント泊して行きたいなあ…。

 

四国カルストから松山までは80kmくらいだった。

松山に着いたのは、すっかり暗くなってから。軽く走った街の雰囲気が、故郷の仙台と似ていて落ち着いた。

中華料理屋で大盛りチャーハンを食べて、ネットカフェへ。やっと汗を流して、空調の聞いた屋内で寝られる。四国カルストとは違った意味で、ネットカフェもまた天国だ。

 

明日は、白川郷ライドで出会った大学教授と、松山の街を観光する。

ああ、楽しみだ。この四国ライド、このままただでは終わりそうにない。

つづく

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