ツーリング記

九州ライド⑥-阿蘇の山中で力尽きライド終了へ

目が覚めると同時に、ダメもとで天気予報を確認した。

少ない望みでも、天気予報が変わって明日まで晴れていてくれないかと祈っていた。残念ながら、相変わらずの雨予報。九州一帯が雨みたいだから、これはもう諦めるしかないようだ。昨晩決めたように、今日はオールナイトで阿蘇を越えて博多までの400kmを走ろう。

 

いつも通りまだ暗いうちに撤収準備を始める。3月も後半になったとはいえ、夜明け前は一番冷える時間。寒い中の準備は、なかなか精神的に応えるものだ。寒い朝に僕に力をくれるのは、自販機のホットコーヒー。温かい飲み物というのは、どうしてこんなにも力をくれるのだろう?自販機が至る所にある日本のインフラに感謝しつつ、100円玉がなくなるまでコーヒーを買い込む。

また一つ発見したのが、ホットコーヒーをネックウォーマーにくるんで首回りに配置すると、めちゃくちゃ温かい。その快適さに心が緩み、つい二度寝してしまった。(笑)

 

結局明るくなってから出発。今日は400走る予定だから、いつもよりのんびりペースだ。といっても、のんびり走ったところで400kmを1日で走り切れるかも疑問である。ここまでの道のりで毎日250km近く走ってきて、特別疲れている感じはしていないものの、全身がなんとなく怠いのがデフォルトみたいになっている。本調子とはいかないだろう。

唯一撮った写真がこれ…

体調を確認しつつ走り出し、いつも通りどこか疲れが残ったままなのを確認した。まあ、いつも通りというのはいいことだ。

宮崎市街を通過して、国道10号を基調に延岡まで北上していく。距離にして120kmくらいあったはずなのだが、実のところ写真を1枚しか撮っていなければ、記憶もほとんどない。大きめの国道をひたすら走ることの弊害とも言えるかも知れないが、距離や体力、天候のことばかり考えながら走っていると、特に見栄えしない道は記憶に全く残らなかったりする。

 

午前中から早くも曇り空なので、昨晩期待していた阿蘇の星空の望みも薄くなってきた。山頂付近は雲の流れが速いはずだから、雲の切れ間があることを祈って、走り続けた。

棚田が美しい

延岡からは本格的な登りに入る。

県道237号線をひたすら走って、高千穂を目指していく。地図を見ているだけでは分からなかったが、細かなアップダウンが多い道で、少し登ってちょっとだけ下がるのを繰り返しながら、徐々に標高を上げていくような道だった。

道中棚田が結構あって、その美しさに救われた。ここまでこれといった楽しいことがなかったから、初のワクワクする景色にテンションアップ。阿蘇を目指して曇天のなか踏んでいく。

山間の田んぼは歴史を感じる

あたりは次第に暗くなっていき、高千穂につく頃にはすっかり真っ暗になった。

助かるのはコンビニがあって補給可能なところ。100km単位で補給ポイントがなかった四国を考えると、かなり良心的なコースだ。(笑)

 

ここから長い夜が始まる。

高千穂で補給した後は、3桁国道を乗り継ぎ高森へ行き、そこから阿蘇を目指す。道としてはかなり田舎なんだが、街灯が意外とあり真っ暗な道は比較的少ないのがせめてもの救いだ。結局曇りで空を見上げても何も見えず、VOLT800に照らされた木々だけがぼんやりと浮かび上がる。

南東から峠を越え、いよいよ阿蘇に入った。しかし予想通り何があるわけでもなく、曇り空で真っ暗な世界では何も見るとこが出来なかった。ああ、晴れていてくれば、月や星明りに照らされて綺麗だったんだろうなあ…。

 

もういいやと思い、さっさと帰ろうと再び上りだしたところで、体に異変が。

なんだか急にスイッチが切れたように、体に力が入らなくなってしまった。疲れがたまっていたのだろうか、それとも期待のものが無い落胆からだろうか。とにかく走れるような状態ではなく、これは仮眠してリフレッシュが必要と判断した。

こういう田舎で最も使えるビバークの場所は、間違いなくバス停だ。

基本的に屋根と壁とベンチがあるし、ものによってはドアまであって、小さな小屋のようになっていたりする。そして時刻表が書いてあるから、終バスから始バスまでの時間は誰も来ないのが確定していて、迷惑になる可能性が非常に低い。おちついて休める場所は貴重だから、普段から走りながらバス停の状態をチェックする癖がついてしまったくらいだ。(笑)

 

その癖のおかげか、1kmくらい手前に良い感じのバス停があったことを覚えていた僕は、Uターンしバス停へと向かった。雨が降るのも時間の問題だから、なるべく早く出発しておきたい。1時間休めればいい方という感じかな。

にしても、どうしたのだろう?ここまでの距離は200kmくらい、獲得標高は4000mくらいだ。ゆっくり走ったはずなんだけどなあ…。頭もよく回らず、無意識のうちにエマージェンシーシートに包まり、眠りについていたようだった。

 

目が覚めたのは1時間半後。

近くの民家の犬の鳴き声で目が覚めた。目の前がシートの銀色だったから、一瞬別世界に来てしまったかと混乱した(笑)

 

疲れは全く取れていないが、気持ちがリフレッシュできた。もういいや、このまま雨の中走るのも危険だから、博多ではなく近い別府を目指そう。ここからは距離にして100kmくらいだから、問題ないはずだ。

 

深夜の山道を、別府へ向け下って行く。帰ると決まれば、もうさっさと帰ってしまいたくなるから、最短距離の県道135号線をチョイスした。

が、これが失敗。途中から道幅が軽自動車1台分程でしかなく、ガードレールも反射材も(もちろん街灯も)ない、砂利や折れた枝だらけのテクニカルなグラベルへと変わっていった。その上、あたりには霧が。強いライトで照らすと、逆に目の前が真っ白になるやつだ。

走れない訳ではないから強行突破したが、かなりヤバい道だった。昼間ならまだしも、深夜に通る道じゃない。

やっと危ないエリアを抜けて、広い道へと出た。パンクも落車も無くて一安心…。

霧の日は写真が明るくなる

あとは霧の中を、別府へ向けて走るだけ。300kmが近づくにつれ、3ヶ月前に痛めた左膝が痛くなってきた。やはりまだ完治はしていなかったか。

ストレッチをして騙し騙しペダリング。安全な道でしか出来ないけど、痛い方の脚のクリートを外して、サドルの上に持ってくるようにすると走りながらでも前側の腿を伸ばせる。そして、踏み込むときはつま先を外側にする。SPDクリートは遊びがあるから、こういう時にも役立つ。意図的にペダリングを変えられるのは大きなメリットだ。

 

別府まで30kmを切ろうかというあたりで夜が更けてきて、霧が雨へと変わっていった。予報通り、というより寧ろ予報よりも遅い降雨で嬉しい限りだ。途中から国道が自動車専用道路になってしまったので、地図上で並走していそうな脇道に入った。

しかし、これがまさかの結果になってしまった。熊本地震の影響で、全面通行止めに。こういう情報、Googleマップに反映してくれればいいのにね。この道が使えないとなると、かなりの距離を迂回し、さらに遠回りな山越えルートを走らなくてはならない。

「はあ…帰ろうか。」

自然と、僕の頭の中はそうなっていた。最寄りの犬飼駅に移動し、輪行。

始発の電車に揺られながら、この5日間を振り返る。

「鳴き砂での昼寝は気持ちよかったなあ」

「海の青も空の青も、本当に綺麗だった」

「ギリギリ間に合った佐多岬の日の出は最高だったなあ」

「あの霧のグラベル、行ってみたいしオフロードバイクが欲しいな」

「250km/日で走れたのは成長だけど、それでは阿蘇に間に合わなかったのか」

次々と、美しい記憶や達成感、欲望、自戒、悔しさが、あふれてくる。処理しきれない疲労と思考に飽和していくこの感覚…。美味しいお酒に酔いしれてしるときの感覚に近いものがあると思う。

特急列車と新幹線を乗り継いで、半日で横浜の自宅に帰宅した。毎度のことだけど、こんなにも速く移動できる乗り物を開発し、インフラとして組み込んだ人間はすごいと思う。そのおかげで、僕は好き勝手に日本中走り回ることが出来る訳だから。

行かずじまいになってしまった阿蘇への思いを胸に、いつの日か行こうと自分にリベンジを誓う。次は、中国地方+阿蘇だな。

 

・走行距離:1,252km

・獲得標高:14,205m

・ライド期間5泊6日

 

 

おわり

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