コラム

とある日の帰り道、サドルの上でのひとり言。

この記事は具体的な何かとかじゃなく、とある日の学校帰りに、サドルの上でぼんやり考えたこと。

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僕の帰路は、市中心部の市街地を抜けるところから始まる。帰りの時間は遅いので日中に比べて人通りは少ないが、それでもある程度の交通量がある。特に遅帰りのサラリーマンとそれを乗せるタクシーが目立つ。

 

…いつも思うことだが、タクシーと自転車の相性は最悪だ。

 

タクシーはその性質上、決まった停留所がある訳でなく、客の要望に応じて道を選択し駐停車する。きっと急な指示を出す客もいるだろうし、普通にはたから見ても「そこでタクシー待つなよ…」って言いたくなる客もたくさんいる。あるいは、常に街を走っているドライバーの慣れや過信・ストレスもあるかも知れない。

自転車はというと、そのタクシーの駐停車を縫うようにして走らなくてはならない。走る場所が被っているから仕方ない場面も無きにしも非ずだが、急に進路をふさがれることもあるし、ウィンカーなしで急発進されて危ないこともある。不注意の一言で片付けるのは簡単だが、視点を変えれば「パッと見で発見し辛いくせに意外と速くてちょろちょろ走る奴」が自転車だ。

今日もまた、タクシーとひと悶着あった。危ない車は後ろに付いてきたときの吹かし方や距離感でなんとなく分かるが、今回もご多分に漏れずよろしくない雰囲気…。

さっさと抜いてもらうと思っていたが、数十m先に路駐している車が。こちらも加速して40㎞/h近くは出ているので、先に路駐車を抜いてから自分を抜いてもらうと考えた。手信号を出しつつ後ろをチラ見。気になったのが、タクシーの距離が異様に近いこと。まあこのくらいの寄せ具合は、自転車にヘイト高めのドライバーからは偶にあるので、手信号を強調しつつ前に向き直る。

と、後方からのヘッドライトとエンジン音がさらに近づき「すぐそこ」の距離感になった。嘘だろと思いつつ右をチラ見するとタクシーが僕の横スレスレを抜きにかかっている。前方には路駐車。安全に抜くにはあと数十cmは右に寄らなくてはならないが、そんなに右に出たら普通にタクシーにぶつかる…仕方なくフルブレーキで急減速しタクシーをかわして、ギリギリで路駐車を抜いた。

今日の帰り道の、数秒の1コマである。

 

チッ。はぁ……。

舌打ちとため息が同時に漏れる。なんていうか…本当にくだらない。こんなことで身の危険を冒すのもくだらないし、二重追い越しという道交法違反と、最悪僕を轢いて人生終了になるリスクを冒す職業ドライバーもくだらないし、そんなくだらないもののために舌打ちしてしまうほど不愉快になっているこの時間は更にくだらない。

ああ、早く全部自動運転にならないかなぁ。本当に運転が好きな人だけハンドルを握ればいいのに。

*一応断っておくと、僕はタクシーの方々全員を批判しているのでも嫌っているのでもなくて、横暴な運転をしたそのドライバー個人について批判している。もちろん模範的で、逆にこちらが申し訳なくなるくらい優しい運転をしているドライバーの方もいる。僕のブログを読んでくださる方はそんな穿った解釈はしないと思うけど、念のため…。閑話休題。

まぁ、自転車にイラつく気持ちも分かる。ドライバーからしたら普通に自転車は邪魔だ。僕も車のハンドルを握るときは自転車が邪魔で仕方ないし、道によっては居なくなってくれれば良いのにとさえ思う。こうしてバイクに跨っている今もまた、ドライバーの方々の心情を察すると申し訳なくてならない。ドライバーの皆さん、ごめんなさい。

でも、それでも僕は、自転車が好きなんだよな。

 

周りに目をやると、街ゆく自転車も大概だ。

自転車が好きだと、逆に乗り方の悪い自転車乗りに対して嫌気がさしてしまったりする。見ているだけで危なっかしく、イライラする走りをする人の多いこと…。街中を見ていると、逆走・無灯火・信号無視・不注意なライダーが大半だ。しかも車体はいつ整備したかも分からないオイル切れのギーギー音に、段差では明らかにおかしい異音を轟かしている。

今日だけでもすれ違った自転車の半分は無灯火だったし、学生らしきクロスバイクの若者はスマホ&イヤホンが標準装備。

………なんていうか、こう、見ているだけで悲しくなってくる。

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帰り道は少し遠回りをして、河川敷の人気のない道を走る。この道はそもそも車は通らないし、時間的にランナーすら殆どいない。さっきまでの喧騒とは打って変わって、僕一人の世界に入る。

静かに風を切りながらアスファルトに擦れるタイヤ音を聞き、少し冷静になる。

ここまで散々ドライバーやライダーにぼやいてしまったが、過去を振り返れば僕だって自転車を好きになり、真剣に乗るようになるまで気にも留めなかったことばかり。数年前の僕は、今僕が嫌っている人々と大差なかったわけで、それを然も別人のように糾弾するのは都合が良すぎるというものだ。

意識しないと、ついつい自分に都合の良いことばかり言ってしまう。全く、嫌になるほど自分は弱い。

今や遠くに輝く街明かりを眺め、ふと、自分はどうして自転車が好きなんだろうと考える。

これは問うても問いきれない話題だし、一つの答えにまとめてしまうには勿体ない話だとも思う。今まで何度も考え、いろいろな答えを出してきた。だけど、やはりまた考える。

今日の答えはこうだった。

 

『自転車は僕に寄り添ってくれるから好き』

 

当たり前のことだけど、エンジンを載せた方が楽に進むし単純に楽しいんだと思う。きっとeバイクで疾走したり、エンジンの付いたバイクで峠を駆け抜けた方が気分爽快なんだと思う。もっと遠くへ行けるし、もっと自由な旅ができると思う。

だけど、自分の力でしか進めないからこそ、等身大の僕自身で表現できるのが自転車で、苦しみも楽しさも全部自分のものなんだろう。

峠で泣きそうになったり、向かい風に苦しんだり、もう走るのを辞めたくなったり。そういう自分の弱さも含めて、包み込んでくれるというか、弱さに寄り添って一緒に走ってくれるのが、自転車なんじゃないだろうか。

 

また一つの答えを見つけて嬉しくなって、僕は腰を浮かせて加速した。

踏みしめる度に感じる加速感。最近ローラーで高ケイデンスの練習をしているお陰で、心なしか重心が安定してスピードの伸びがいい。ハンドルを振ってタイヤが唸るのと同じく、僕の息も上がる。

ギリギリまで頑張ってはみるけど、スピード感のある走りができるのはほんの数十秒だ。ドキドキいう心臓の音を聞きながら、僕は脚を止めて夜空を仰ぎ見る。月が綺麗に輝いていた。

 

河川敷もそろそろ走り終えて、もうすぐ家につく。

別になんてことない日常だが、こうして毎日自転車に乗っていられる日々は幸せなのかも知れない。やっぱり僕は自転車が好きだ。気持ちの良いことばかりじゃないけど、僕はこの趣味を大切にしていきたい。

おわり

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About the author

S.K.

ロングライド&グラベル系自転車乗り。その他キャンプ、登山など。
・身長177㎝/体重68㎏
・北海道一周2,400㎞/8日2時間
・国道4号(536㎞)/21時間37分
・グラベルエベレスティング達成
・冬季北海道1,000㎞……...etc.