ツーリング記

【4話】友達『チャリで北海道まで行ったら面白そうじゃねw』からロードバイクを買い旅に出た話④福島~仙台~松島

心地の良い目覚めだった。

旅に出て、一番の朝だったかもしれない。といっても、ここまでの朝はお世辞にも良い環境ではなかったのだ。暑すぎたり、テント内に雨が降ってきたり。

今朝は穏やかで、昨日の雨は止んでいた。そして僕らはこれから、昨日出会った方の家で朝食をご馳走していただくのだ。気分が落ち込む訳なんてない。

T「おはようございます!」

さっさと準備を済ませ、僕らは昨日のカフェへと向かった。昨日の夜は仲良く話をしていたが、いざ仕切りなおして会うとなるとなんだか気恥ずかしい。

小父「おはよう。雨止んでよかったな!」

カフェは着々と開店の準備を始めていた。カフェで朝ごはんを頂くなんて、なんて優雅な朝なんだろう?

小父「今日はどこまで行くんだ?」

T「仙台までの予定です」

「僕の実家が仙台にあるので、今日はそこに一泊する予定です」

小父「そうか。白石のあたりは峠だから大変だぞ?」

小父「阿武隈川沿いを走って行けば平坦だから、そっちを通るといい」

T「そうなんですね。これだと、どのルートですか?」

スマホのgoogleマップでルートを確認する。走りながらもすぐに確認できるし、適宜ピンを打っておけば忘れることもないから、やっぱり便利だ。地元の人の知る道と、文明の利器の融合だ。

朝食を食べ終え、何度もお礼をして出発した。さあ、いよいよ実家の仙台へ。ルートを確認するとここからは100km弱だ。

*** *** * *** ***

雨は止んだものの、快晴とは行かずどんよりとした曇り空。しかしそのおかげで気温が上がらず、かえって走りやすかった。

教えてもらったルートは阿武隈川のサイクリングロードを通る道で、とても快調に走ることが出来た。やっぱり地元の人の知る道は良い。

程なく宮城県に入り、知っている地名がたくさん出てくるようになった。確実に実家に近づいている。その感覚に励まされながら、田舎道を淡々と進んでいった。

 

やっぱりTのバイクはFDの調子が悪いらしく、途中サイクルベースあさひにピットイン。

店員「お、自転車旅ですか!学生さん?いいですね~」

自転車好きにとって、自転車旅というのはロマンであり夢のようなものらしい。どんなものを使っているのか、どんな道を通ってきたのか?とても興味深そうに、楽しそうに話を聞いてくれた。自転車旅って、こんなにも人の注目を集めるものなんだと驚いた。

軽いメンテナンスをしてもらい、装備も追加で購入し再出発。もうゴールは目前だ。

*** *** * *** ***

そして、仙台に到着。

だいぶ走るペースもつかめてきたのか、十分日があるうちに実家に着くことが出来た。突然自転車旅をするなんて言い出して、本当に走ってきたら両親はどんな顔をするんだろう?そんな疑問と楽しみを抱きながら実家のインターホンを鳴らした。

「ただいま」

「おう、よく来たな」

なんだ、普通の反応か?

「お帰りなさい」

「って、あなた達。もの凄い匂いだから早く服脱いでお風呂に入って!」

おぅ、そう来たか。

「確かに風呂入ってなかったけど…え、俺らそんな臭い?」

「うん、匂いでこの部屋にいたことが分かる」

「えぇ…」

どうやら昨日の雨は、汗を流してくれた訳ではなさそうだった。一応臭い自覚はあったんだけど、自分たちじゃ慣れのせいで分からない。

にしても「部屋にいたのがわかる」なんて、いきなりハイレベル過ぎないか?(笑) 一体どんな臭さなんだよ…。

そんなことを言われるのは心外なので、さっさと風呂に入ってさっぱりした。3日ぶりの風呂が最高に気持ちよかったのは言うまでもない。

*** *** * *** ***

バイクのメンテを済ませたら夜ご飯。

いつも食べていたはずのご飯やみそ汁が美味い。食べなれた味というのはどうしてこんなに安心するのだろうと、一人しんみり思ったりしてみた。食卓が懐かしくなる感覚を、こんなところで感じるとは。

夕食を済ませると、明日からの行程をTと話し合い、翌日に備えさっさと寝た。200km×5日を往復するという無謀な計画はとうに破たんしていたので、帰りは輪行にしのんびり北海道へ向かう計画に変更。

せっかく時間が出来たのだから、東日本大震災の被災地である海岸線=45号線を走ることにした。アップダウンの多い道だが、それはそれでいいだろう。ここまでの4日間で、この先走り抜く覚悟が決まった。

何処かの社長さんも言っていたっけ。『覚悟は、言葉にしたときに芽生えだし、行動が伴うほどに本物になる』まさしくその通りだ。僕は、なんとしても北海道まで行ってやる。

そんなことを、見慣れた自室の天井を見やりながら思っていた。慣れたベッドに嗅ぎなれた匂い。多分ここほどに安眠できる場所はないだろう。気づけば僕は、深い深い眠りについていた。

*** *** * *** ***

翌日は晴の予報だったから、早めに出発する予定だった。

しかし安眠しきった僕が起きられるはずもなく、その姿を見たTもまた、永遠に寝ていられるほど疲れていた。結局僕らが起きたのは、太陽が西に傾きだしてからだった。

寝坊したのはさほど驚くことでもない。正直、予測はついていたさ。僕らは互いが起きたことを確認すると、言葉少なく淡々とパッキングに取り掛かった。

日が傾いてからの出発なんて可笑しな話だが、そんな日もある。

(それもまた『旅』だよな。

今まで僕を縛ってきたルールやルーティンが、面白いほどにぶっ壊れていく。そんなもののすべてが、小さく感じられた。涼しげな東北の夜風を受けながら、僕はペダルを踏みしめた。

*** *** * *** ***

今日の寝床は松島。

地元で見慣れた景色だが、一応日本三景に入ってたりする。確かに珍しい景色だけど、所謂『観光地』と化している部分にはその魅力は微塵も感じられない気がした。

と、お囃子が潮風にのって松島湾に響き渡り、花火が打ちあがった。どうやら今日は夏祭りの日だったらしい。なんという偶然、寝坊して良かったじゃないか(笑)。ああ、僕らは運がいい。

男二人で花火鑑賞もイマイチなので、僕は一人で防波堤まで歩いて行った。真っ黒な海に、打ち上げ花火が輝いた。波の音と遠くに聞こえるお囃子に、どこか懐かしさを感じてしまうのはなぜだろう?鼓舞しの聞いた歌声が、松島湾に響き渡る。

(ああ、いつか自分の家族とこの景色を見たいなあ。

柄にもなく、そんなことを思ったりした。

「こんなにいい夜なのに、お前と2人ってのが癪だなあ」

T「うるせえ、俺だって自分の家族とこの景色を見たいわ」

フィナーレに向かう打ち上げ花火を尻目に、僕らはテントに入って寝に入る。明日は今日の分も走らねば。狭いテントに、男二人肩を並べて眠りについた。

 

つづく

(5話はこちら)(3話はこちら)

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