コラム

眠れない夜を、サドルの上で過ごすということ

私事だが、最近眠れない夜が多い。

なぜだか分からないけど、いや、多分分かってはいるのだけど、結論として寝られないのだ。なんとも情けない。

 

まあ、そんな時もある。それはそれだ。

大人しくローラーで汗をかき、いつものバーボンを愉しむ。大抵はそれで寝れるんだけど、それでも無理な日があったり。それは経験からなんとなく分かる。これでも、20年以上付き合ってきた僕の心だ。

 

そんな無理そうな日には、愛車のロードバイクを駆る。

真夜中になるのを待ってから、家を飛び出す。

誰もいない暗がりを、一人で風を切っていく。

別にロングを走る訳じゃないから、体力のマネジメントなんて必要ない。踏みたくなったら踏めばいい。

別に誰がいる訳じゃないから、周りのことなんて気にならない。歌いたければ歌えばいい。

別に誰かと走ってる訳じゃないから、人に気を遣わなくていい。眠くなればその辺で寝る。

一人の良さは、そこにある。

気持ちの良い直線。僕は渾身の力を込めハンドルにしがみつき、ペダルを踏み込む。

ロードバイクは素直だ。踏み込むリズムに合わせて加速していくタイヤの音が、全身を震わせる。そして、ペダル、クランク、チェーンリング、チェーン、スプロケ、フリー、スポーク、リム、タイヤと、僕の力が伝わる感覚を得る。

「紛れもなく、僕の力で進んでいる」

その感触が、一層僕をのめり込ませる。すべてを忘れさせる興奮が、そこにはあるのだ。

 

最高速度に達すると、空気の壁が僕を阻んでいるのがわかる。脚力の限界、心肺機能の限界、それをまた全身に感じる。一秒間に3回は脈打つその鼓動は、激しい呼吸音に勝るとも劣らない音を立てて、頭にガンガン響く。ああ、僕は生きている。

人里離れた峠を走れば、逃げだした街が輝く。

海面に揺れるその明かりが、木々の間から覗くその光が、辺りの闇によって際立たされる。多分見た人にしか分からないけど、その光景は美しいんだ。

その明かりに安堵している僕が、どこかにいる。この気持ちは多分、人間としての本能だ。「人は結局寂しがり屋で、完全に一人では生きていけないんだなぁ」なんて、自分を棚に上げて考える僕も同居している。

フッと可笑しくなって、思わずケタケタ笑い出す。その声が山あいに響くのが分かる。こんなところにまで来て、明らかな寝不足になってもなお、余計なことを考える余裕のある僕の頭は面白い。

 

そのうちに、体力や脚力が限界を迎える。

睡魔で頭は霧がかかったようにぼんやりとして、脚は今にも攣りそうだ。ああ、早く家のベッドに潜り込みたい…。

 

帰ろう。

そうだった、明日もあるんだから。

気が付けばそうして、明日が今日に変わっているのだった。

 

おわり

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