ツーリング記

【2話】友達『チャリで北海道まで行ったら面白そうじゃねw』からロードバイクを買い旅に出た話②横浜~宇都宮~郡山

出発は5時半。

ああ、夏の朝だ。涼しげな中にも湿度とぬくもりがある空気が、Tシャツの中を流れていく。

バイクのリアが重いせいで、走りに軽快さはない。走りは兎に角もっさりとした感じ。それでも、これからの旅路への期待に胸を膨らませた僕の心は軽かった。Tもそんな気分だったのだろうか。僕らは言葉少なく、北へ北へと進んでいった。

まずは都内を通過する。五反田、品川、霞が関、秋葉原…。大学入学と共に上京し横浜からほどんど出ていなかった僕には、初めて見る街ばかりだった。サラリーマンたちがどこからともなく出てきては、左右にそびえたつビルへと吸い込まれていく。ふと見上げると、頭上を覆うビル群が強い日差しを遮っていた。

(とんでもない街だ…。東京には、こんなにも人と建物が集まっていたのか。

*** *** * *** ***

荒川を渡る頃には通勤ラッシュも落ち着いたのか、街が昼の顔に変わるのを感じた。ああ、やっと少し落ち着ける。

Tも疲れたのか、意見が一致し足立区で休憩。ここまで家を出てから約50km。こんな距離、自転車で走ったのは初めてだった。補給食に買ったクリーム玄米ブランのブルーベリー味を食べる。なんだこれ、小さいくせに意外と食べ応えがある。

と、休憩所の近くのマンションの管理人に話しかけられた。

「あんちゃん、自転車旅?どっから来たの?」

T「いや、横浜から函館まで行こうと思ってて。まだ50kmですけどね(笑)」

「今日は那須まで行くつもりです」

「いいねえ~若いって。気を付けて走るんだよ。」

T「ありがとうございます!」

旅を始めてから初めての知らない人との関わりだった。

(やっぱりこういうのって、あるもんなんだなぁ。

*** *** * *** ***

気を取り直して、ライド再開。

埼玉を抜け栃木県に入る頃には、人生初のロングライドというものに面食らっていた。

気温もだんだん上がってきて、自転車に乗るのが辛くなる。ドリンクはいつの間にか無くなり、綿のTシャツは汗ですっかりびしょびしょだ。汗をたっぷり含んだTシャツが、走行時の風になびいて胸にパタパタ当たって痛かった。左腕にはめた時計を見やれば、時刻は既に午後二時だ。

(今日は200km走る予定なんだ。たかだか100km程度できつくなってどうする?

自分を鼓舞し踏み続けるも、相棒のTもキツイらしい。あいつの性格からして辛いなんて絶対言わないが、俺が踏んでも付いてこないのは分かっていた。ていうか、冗談じゃなく俺も辛い。(笑)

*** *** * *** ***

ようやく130kmを越えた。ここからは根性の見せ場だ。10歳の頃から、少年野球の練習で吐くほど走っていた僕だ。

(ぶっ倒れるまで食らいついてやる。負けてたまるか。

宇都宮までの15kmが、やけに遠い。

(というか、このサイコン壊れてるんじゃないか?100mがこんなに長い訳ないよな?w

平坦100mを走るのがどうしようもなく辛かった。辺りでこだまするアブラゼミの煩い鳴き声が、余計に僕を苛立たせた。

 

「しゃあぁ宇都宮まであと14キロォォオ!」

T「おうぁぁあ!」

サイコンを持っているのが僕だけだったから、残りの距離をTに向かって叫んだ。叫ばずにはいられなかった。1km走るのが、どんなに辛いことか。宇都宮まであと14kmを切ったミニストップでまた休憩。

(あと15kmというところから根性で1kmも走ったんだ、これは称賛に値する走りだ…。

(…控えめに言って死にそう。

暑さと疲労で視界の焦点が合わない僕らに、ミニストップのレジのお姉さんが一言。

「もしかして自転車旅ですか?今日は暑いですけど、頑張ってください!」

これで元気100倍になるんだから、男ってちょろい(笑)。その時の詳細なんてよく覚えていないけど、そこでやる気が出ていたのだけは覚えている。サクレの桃が、甘酸っぱい香りを匂い立たせた。やってやる。

*** *** * *** ***

そこからの記憶は殆ど無い。あるのは、言葉にならない叫びを口ずさんでいたことだけだ。

気づけば宇都宮駅西口のバスロータリーで、Tと二人で記念撮影をしていた。辺りは夕暮れを通り越し、夜が顔を覗かせていた。自宅からここまで155km。もはや歩く事すら億劫だ。宇都宮名物の餃子食べようなんて余裕は、僕らには微塵も有りやしなかった。

「なあ、店探すのもめんどくさいし、そこの吉野家で飯食わねぇ?」

T「おう、何でもいいけど腹減った…」

せっかく宇都宮まで来たというのに、僕らの夕ご飯は餃子ではなく吉野家の牛丼だった。しかしハンガーノック状態の僕らには、あのカロリー満天の牛丼の香りが全身の疲れを忘れさせた。あの時の大盛りネギ玉牛丼の味は、たぶん一生忘れることはないだろう。涙が出るほど美味かった。

夕ご飯を食べ休憩を終えた僕らは、寝床へと向かった。鬼怒川沿いのとある公園だ。辺りは真っ暗で、僕らの自転車のライト以外明るいものは何もない。初の野宿である僕らは、少々緊張していた。途中車のライトが駐車場に見え注意されるのではと心配したが、結局何も言われることはなく事なきを得た。一安心した直後、深い眠りについた。

*** *** * *** ***

翌朝。

一応iPhoneの目覚ましは05:30にかけておいたが、2人とも見事に二度寝した。無理もない。初心者がキャンプ装備で165km走ったら、きっと誰でもそうなるだろう。

結局09:00にテントが暑すぎて目が覚め撤収開始。曇天とはいえ、1~2人用の狭いテントに男が2人寝ていたら、日が昇ればとてつもなく蒸し暑いのだ。とにかく喉が渇いていた僕らは、公園内に水道がないか探しに自転車を走らせた。

その公園はどうやら期待以上の設備で、水が飲めるばかりか川や芝生が綺麗に整備されていた。川には小魚が群れをなしており、シオカラトンボがその青い胴体を輝かせ飛んでいた。

慣れないテント泊では疲れは取り切れない。そんな僕らにとって、思ってもいないオアシスだ。水道に飛びつき、喉を潤す。

喉の渇きが潤ったら、昨日の日焼けで火照った体を冷やしたくなる。たまらず僕らは川へと入っていった。素足に感じる川底の砂の感触が心地よく、冷たい水が頭をすっきりとさせる。遠くに聞こえる親子の笑い声が、どうにも心を和ませた。

*** *** * *** ***

もはや昨日の疲労で走る気力さえを失いかけていた僕らに、また生気を与えてくれた。そう、北海道までの道のりはまだまだ長いのだ。

宇都宮の先は、那須塩原、白河、郡山、二本松、福島だ。100km先の郡山を目標にバイクを走らせた。

曇天のおかげで暑さに関してはいくらか楽である。しかし那須塩原のアップダウンの連続に、昨日で既に売り切れている脚は全くついてこない。

(お前の脚はどれだけひ弱なんだ?もっと踏め。

もう一人の僕が言っている。しかし、どうにもこうにも脚は力を出してくれない。そんな自分が情けなかった。

 

早くも息絶えで黒磯駅周辺に到着。ご飯を食べようと訪れた町だったが、期待に反し飲食店の類は見当たらなかった。仕方なく駅前のヨークベニマルのフードコートのラーメン屋で腹を満たす。

店内に入り込んだハエが僕らの周りをしつこく飛ぶのだが、これは僕らが臭いって証拠だろうか?

「なあ、俺らって臭いんかな?一応ギャッツビーで身体拭いてるけど」

T「臭いんじゃね?」

T「髪の毛ワックスばりにセット決まるしw」

言われてみれば確かにそうだ。昨日からの汗で塩をふいた髪の毛は、海水浴の後のように自由自在に髪型が決まった。癖毛のTですら、自由自在にセットが出来る程だ。

ラーメンと串焼きを頬張り、とりあえず腹を満たした。小学校の給食を思い出すラーメンの味が、学生の貧乏旅を象徴しているようだった。

*** *** * *** ***

白河市街地の手前の下りに助けられ、何とか山岳地形をクリア。あのコース、今思えばほんの微々たる丘程度でしかないが、ロードバイクを買ってそのまま旅に出た僕にはとてつもない山だった。

その調子で郡山を目指す。市街地を過ぎてからは延々と続く田舎道なため、コンビニを見つけるたび休憩した。そのくらいしか、僕らの気力を回復してくれるものはなかったのだ。朝から続く曇天が、常に頭上に重くのしかかっていた。

やっとの思いで郡山到着。分厚い雲は、その色を灰色から底なしの黒と変えていた。

「ついたな郡山。飯食って寝よう」

T「おう、腹減ったな…」

夕食後のテント設営は、2日目にしては慣れたものですぐに終わった。というより、一刻も早く寝たい2人が、寝たい一心で設営をしていただけだといった方が適切かもしれない。

翌日の天気予報が雨なことが気がかりだったが、テントに入ると気が付けば翌朝を迎えているのだった。

 

つづく

(3話はこちら)1話はこちら)

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